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再処理施設の安全性向上に向けて
−蒸発乾固事故で放出される気体状Ruの化学形の同定−


図1 s-HLLW加熱時におけるRuO4、二酸化窒素、硝酸の放出挙動

図1 s-HLLW加熱時におけるRuO4、二酸化窒素、硝酸の放出挙動

この図は、s-HLLWを加熱した際に観測されたRuO4、二酸化窒素、硝酸の紫外可視分光法における吸光度(放出量に相当)と、温度・時間の関係を示しています。特にRuO4は、140 ℃から170 ℃の温度範囲で二酸化窒素や硝酸と共に放出されることが確認されました。

 原子力発電所で使用された燃料は、「再処理施設」で化学処理を行うことで、再利用可能なウランやプルトニウムを回収できます。この過程で高濃度の放射性物質を含む高レベル濃縮廃液(HLLW)が生じます。HLLWは崩壊熱を発するため常に冷却が必要ですが、冷却が長期間失われると「蒸発乾固事故」となり、放射性物質が環境中へ放出されるリスクがあります。特にルテニウム(Ru)は気体状の化合物を形成し、他の元素よりも多く放出されうるため、事故時の影響評価や安全対策にはその化学構造の把握が不可欠です。
 本研究では、HLLWの模擬物質(s-HLLW)を加熱し、生じたガスを紫外可視分光法で非破壊的に分析する手法を開発しました。これを用いてs-HLLW加熱時に放出されたガスのスペクトルを測定し、そこに現れる特徴的な吸収ピークを解析することで、四酸化ルテニウム(RuO4)、二酸化窒素(NO2)、硝酸(HNO3)を分離・定量しました(図1)。その結果、放出Ruの約9割がRuO4であることを明らかにしました。
 本研究の成果は、事故時のRuの生成・放出機構の解明に寄与し、事故影響評価モデルの改良に貢献します。特に、RuO4が主要な放出物質であることを特定したことで、除去や封じ込め技術の開発が期待されます。また、本研究で確立した非破壊分析法は、事故時の放射性物質の放出評価に応用でき、再処理施設の安全性向上に資するものです。

著者(研究者)情報

著者(研究者)氏名 | 吉田 尚生
原子力安全・防災研究所 安全研究センター サイクル安全研究グループ

参考文献

Yoshida, N. et al., Release Behavior of Gaseous Ruthenium Tetroxide During Heating of High-Level Liquid Waste Simulant During Simulated Accident Conditions, Nuclear Technology, vol.210, issue 10, 2024, p.1999-2007.

外部論文: https://doi.org/10.1080/00295450.2024.2306688

公開日 2025年 3月 31日

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