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流体の自由表面の動きを追跡する
−粒子法の安定性及び精度の向上−


図1 従来及び本手法によるダム崩壊問題のシミュレーション結果(自由表面形状と圧力コンター図)

図1 従来及び本手法によるダム崩壊問題のシミュレーション結果(自由表面形状と圧力コンター図)

t = 0.4 sの拡大図に示されている通り、従来の手法では数値的な圧力の乱れやノイズが散見されますが、本手法では滑らかな圧力分布が得られています。また、従来の手法では負圧を考慮すると数値的に不安定になるため、負の圧力値をゼロに置き換えるリミッターを使用されています。一方、本手法では負圧を直接考慮しても計算が安定しており、t =1.2 sの図がこれを示しています。

 粒子法は、計算格子を必要としないラグランジュ計算手法の一種であり、移動境界を伴う流体の追跡に優れ、炉心溶融物の挙動把握にも利用されています。しかし、従来の粒子法では粒子の移動に伴う配置の不均一性による、計算の精度が低下する問題がありました。既存の高次離散化スキームを用いて精度を向上させることは可能ですが、自由表面付近の取り扱いには限界があるため、複雑な界面形状を正確に特定することの困難さに伴い、粒子配置が偏ることで生じる数値的不安定性(計算破綻)が課題となっていました。
 本研究では、流体の自由表面の動きをより正確に追跡するために、粒子法の精度及び安定性を向上させる新たな手法を開発しました。本手法は、従来の粒子法とは異なり、粒子間の空間差分を三段階で行い、一度に解く係数の数を減らすことで数値安定性を高めるコンパクトスキームを提案しています。また、自由表面での分裂や合体を含む複雑な変化に対応するために曲面フィット法を採用し、より精度高く自由表面の位置を特定できるようにしました。図1は、自由表面流れのベンチマークとしてダム崩壊問題に対する本手法のシミュレーション結果を示しており、従来の手法と比較して圧力場や自由表面のプロファイルに顕著な改善が見られます。
 今後、この開発された手法を、シビアアクシデント時の溶融炉心の挙動や溶融炉心・コンクリート相互作用(MCCI)などのシミュレーションに適用することを計画しています。

著者(研究者)情報

著者(研究者)氏名 | 汪 子迪
安全研究・防災支援部門 安全研究センター 原子炉安全研究ディビジョン シビアアクシデント研究グループ

参考文献

Wang, Z., et al. Compact Moving Particle Semi-Implicit Method for Incompressible Free-Surface Flow, Computer Methods in Applied Mechanics and Engineering, vol.414, 116168, 2023, 49p.

外部論文: https://doi.org/10.1016/j.cma.2023.116168

公開日 2024年 10月 25日

安全研究・防災支援

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