トピックス
原子炉圧力容器が急冷されるときの熱伝達
−浮力共存下の下向対流熱伝達の評価−
図1 様々な実験体系、試験流体で実施された対向複合対流実験のデータと、Jackson and Fewster相関式の比較
横軸は大きいほど自然対流の影響が顕著であることを表します。縦軸は自然対流影響による熱伝達の促進効果の大きさを意味します。実験データには水、空気、フレオンなどの異なる試験流体で実施されたもの、円管、片面を加熱された矩形管、両面を加熱された矩形管などの異なる試験装置で実施されたデータを含みます。Jackson and Fewsterの相関式はこれらの実験データを十分に再現できることが示されました。
中性子脆化した原子炉圧力容器(RPV)壁面に非常用炉心冷却系の起動等の要因による急激な冷却による熱応力が加わった時に壁面上に亀裂が存在した場合、その亀裂が進展する可能性があります。この事象は加圧熱衝撃(PTS)と呼ばれます。原子力発電所の運転期間延長による高経年化を見据えると、RPV健全性の最適評価が重要となります。RPVのダウンカマ内の流れは事故条件によっては強制対流と自然対流が共存した複合対流となることが考えられます。日本国内の安全審査に用いられるJEAC4206-2007に構築された原子炉健全性評価手法では、熱応力の評価に必要なダウンカマ壁面における熱伝達率を評価するためにJackson and Fewster相関式を用います。この式は直径10 cm程度の加熱した垂直円管内を流下する水に対して実施された実験データによって作成されています。そのため、運転期間延長の許可差し止めを求めた訴訟において、この式が実際のプラントにおける評価に用いることができるのか疑問視されていました。
そこで本研究では、既存の対向複合対流の熱伝達相関式についてレビューし、複数の既往実験データと各相関式との比較を行い、相関式の予測性能を評価しました。その結果、流路の代表長さに水力等価直径を用いることにより流路形状の違いに関わらず相関式が適用可能であること、支配パラメータの無次元化により試験流体によらず相関式が適用可能であることを確認できました。
そこで本研究では、既存の対向複合対流の熱伝達相関式についてレビューし、複数の既往実験データと各相関式との比較を行い、相関式の予測性能を評価しました。その結果、流路の代表長さに水力等価直径を用いることにより流路形状の違いに関わらず相関式が適用可能であること、支配パラメータの無次元化により試験流体によらず相関式が適用可能であることを確認できました。
謝辞
本研究は、原子力規制委員会原子力規制庁からの受託研究「令和6年度原子力施設等防災対策等委託費(加圧熱衝撃に係るリスク評価手法開発)事業」成果の一部あり、本研究で得られた成果は裁判の中でも引用されました。
著者(研究者)情報
著者(研究者)氏名 | 茂木 孝介 | |
安全研究・防災支援部門 安全研究センター 原子炉安全研究ディビジョン 熱水力安全研究グループ |
参考文献
公開日 2024年 10月 25日
安全研究・防災支援