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レーザー光ビームは光線か?波動か?
−新しい光の表現stochastic ray tracingの提唱−


図1 Stochastic ray tracingによるガウスビームの再現

図1 Stochastic ray tracingによるガウスビームの再現

(a)白色の曲線はstochastic rayの見本路の例を示しています。z軸をレーザー光伝搬方向として、1万本のstochastic rayを青色で重ねて描画し、濃淡でレーザー強度分布を表現しました。(b)Stochastic ray tracingによる光線本数分布のヒストグラム、(c)ガウスビーム理論式によるレーザー強度分布を示しています。

 原子力機構では、レーザー光を物理学だけでなく廃炉措置研究などでも使用しています。これらの活動において、レーザー光伝搬を深く理解することは重要です。光が光線でもあり光波でもあることはよく知られています。しかし、従来の光線描像は光波描像から回折効果を取り除いた近似で、二つの描像は数学的に等価ではありません。さらに、集光は回折効果の一例です。光線描像は今でも有用な計算技法である一方、回折効果の欠落は集光の見積りに大きな予測誤差をもたらします。レーザー実験では集光されたレーザー光を頻繁に使用するので、これは大変な問題です。
 そこで光線描像に回折効果を取り込むことができれば上記の問題は解決すると考えました。真空中伝搬するレーザー光ビームに対して、そのray(光線)は直線でなくstochastic(ギザギザ)な光路を描くと再解釈し、その数理構成を新たな光線光学模型“stochastic ray tracing”として提案しました。このstochastic rayの発展方程式はビーム型光波と数学的に等価で、ゆえに、光波の特徴である回折効果も光線として表現可能です。
 レーザーを用いた研究ではガウスビームが頻繁に利用されます。Stochastic ray tracingで回折効果に由来する集光点付近のRayleigh領域挙動を正しく再現すること(図1(a))、光線本数分布(図1(b))が光波理論によるレーザー強度分布(図1(c))に整合することを数値計算で確認しました。レーザー強度分布は被照射物への注入エネルギー密度に直結するので、本手法はレーザー加工能力予測の高度化に貢献できると期待されます。

著者(研究者)情報

著者(研究者)氏名 | 瀬戸 慧大
敦賀事業本部 敦賀総合研究開発センター 先進技術開発課

参考文献

Seto, K., Stochastic Ray Tracing for Fresnel Diffraction, Optics Express, vol.32, issue 10, 2024, p.16999‐17011.

外部論文: https://doi.org/10.1364/OE.521317

関連情報: レーザー応用研究>II.産業界へのレーザー技術の展開>II-4 Stochastic ray tracingの提案

公開日 2025年 2月 14日

 先端原子力科学研究 

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