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高耐熱ハイエントロピー合金の特異な力学特性の起源
−電子状態計算に基づく力学機能設計−


図1 電子状態計算による2つのハイエントロピー合金の格子ひずみと転位芯構造及び転位のエネルギー

図1 電子状態計算による2つのハイエントロピー合金の格子ひずみと転位芯構造及び転位のエネルギー


 Ni基超合金の耐熱温度を超えるガスタービンへの応用が期待される高耐熱ハイエントロピー合金(RHEA)として、TiZrHfNbTa(RHEA-Ti)とVNbMoTaW(RHEA-V)という2つの合金が広く研究されてきました。本研究では、これらの合金の強度と延性が大きく異なることを実験によって示し、力学特性の違いを生じる因子を理論及び電子状態計算によって解明することを目的としました。
 金属材料の強度は結晶の格子ひずみと相関することが知られています。そこで、格子ひずみを原子の変位によって評価する二乗平均原子変位(MSAD)を用いて評価しました(図1(a))。その結果、RHEA-TiのMSADはRHEA-Vと比べて約3倍大きく、強度を上昇させることが示されました。
 次に延性を決定する転位構造の解析を行いました(図1(b))。矢印に囲まれた転位芯領域で、RHEA-Tiの転位芯は不均質に広がっていることが確認されます。転位芯のエネルギーの分布を解析した結果、RHEA-Tiの転位のエネルギーは明らかに低いことが分かりました。これは、結晶中に転位が導入されやすいことを示しており、RHEA-Tiが優れた延性を持つ要因が転位の安定性にあることが分かりました。
 これらの力学特性の違いは、Ti、Zr、Hfなどの第IV族元素によることも示され、構成元素の制御に立脚した元素戦略による力学機能設計への展開が期待されます。

謝辞

本研究は、JSPS科研費(JP18H05453)「計算材料科学によるハイエントロピー合金の力学特性の解明と制御」の助成を受けたものです。



著者(研究者)情報

著者(研究者)氏名 | 都留 智仁
原子力基礎工学研究センター 照射材料工学研究グループ

参考文献

Tsuru, T. et al., Intrinsic Factors Responsible for Brittle Versus Ductile Nature of Refractory High-Entropy Alloys, Nature Communications, vol.15, issue 1, 1706, 2024, 10p.

外部論文: https://doi.org/10.1038/s41467-024-45639-8

プレスリリース: 耐火ハイエントロピー合金の脆性と延性を支配する因子の解明−多様な元素が拓く優れた合金の開発−

公開日 2024年 9月 26日

原子力基礎工学研究

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