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コンクリート廃棄物に含まれる難測定核種カルシウム41の簡易分析に向けて
−電子準位の特異性を利用してカルシウム奇数同位体を選択的にイオン化−


図1 レーザーを用いた2波長2段階励起による41Ca原子の選択的イオン化

図1 レーザーを用いた2波長2段階励起による41Ca原子の選択的イオン化

図2 Ca安定同位体試料を用いたレーザー共鳴イオン化セットアップ

図2 Ca安定同位体試料を用いたレーザー共鳴イオン化セットアップ

図3 レーザーAの周波数をスキャンして測定されたCa+イオンスペクトル(予想される41Caのピーク位置を下矢印で記載)

図3 レーザーAの周波数をスキャンして測定されたCa+イオンスペクトル(予想される41Caのピーク位置を下矢印で記載)


 原子力発電所の解体作業では、大量に発生するコンクリート廃棄物を迅速に処理するため、クリアランスレベルの検認を目的とした放射性核種カルシウム41(41Ca)の簡便かつ高感度な分析が求められています。41Caは半減期約10万年と長く崩壊により放出されるX線エネルギーが低いため、放射線計測の難しい難測定核種の一つです。代表的な質量分析法である誘導結合プラズマ質量分析法でも隣接する質量数の40Ca及びアルゴン40(キャリアガス成分)によるスペクトル干渉等の影響により、クリアランスレベル相当の41Ca/40Ca比が10−7以下の試料に対しては、分析感度が十分ではありません。
 本研究で使用するレーザー共鳴イオン化法(図1)は、41Ca原子固有の共鳴波長のレーザー@、Aを照射して41Ca原子のみを選択的にイオン化できるため、他の分析法と比較して同位体・同重体等による質量スペクトル干渉の影響を抑制できます。特に、奇数同位体のエネルギーがシフトする特徴を持つリュードベリ準位を利用することで、40Caからの分離が容易になります。図2のとおりCa安定同位体試料を黒鉛炉で加熱してCa原子ビームを生成し、レーザーAの周波数をスキャンして測定されたCa+イオンスペクトルを図3に示します。奇数同位体の43Caが高周波数側にシフトする様子が確認され、41Caも同様な傾向が予想されます。
 本研究の手法を質量分析に組み込むことで、レーザー@、Aの同位体選択性及び質量分析計の質量分解能を考慮して41Ca/40Ca比が10−10以下の分析感度が期待され、コンクリート廃棄物の迅速分析に有用であると考えられます。

謝辞

本研究の一部は、JSPS科研費(JP19H02646)の助成を受けたものです。


著者(研究者)情報

著者(研究者)氏名 | 岩田 圭弘
福島廃炉安全工学研究所 廃炉環境国際共同研究センター デブリ探査グループ

参考文献

Iwata, Y. et al., Resonance Ionization Spectroscopy of High-Lying 4sns and 4snd Rydberg Levels of Odd Calcium Isotopes, Journal of the Optical Society of America B, vol.41, issue 1, 2024, p.119‐126.

外部論文: https://doi.org/10.1364/JOSAB.507539

公開日 2025年 2月 7日

 原子力基礎工学研究 

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