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土壌粘土鉱物を用いた環境に優しい熱電材料の創製
−高温域での熱電変換技術への挑戦−


図1 溶融塩法を利用して豊富かつ無毒な資源である粘土鉱物から作製した熱電材料とその熱電性能*

図1 溶融塩法を利用して豊富かつ無毒な資源である粘土鉱物から作製した熱電材料とその熱電性能

Snyder, G. J. et al., Complex Thermoelectric Materials, Nature Materials, vol.7, issue 2, 2008, p.105–114 (Figure B2 (a) より引用)。

 近年、エネルギー効率の向上と廃熱の有効活用が重要視されています。本研究では、豊富かつ無毒な資源である粘土鉱物の一種、風化黒雲母 (WB) を用いた新たな熱電材料の創製に取り組みました。WBを粉砕・分級し、溶融塩法による熱処理を行うことで、高温での熱電物性を有する結晶鉱物を生成することに成功しました。特に、WBに塩化カルシウムと塩化カリウムの混合塩による溶融塩で熱処理した試料は、650 ℃から850 ℃の高温域で熱電性能を示す傾向があることが分かりました (図1)。材料コストの安さ、高温の排熱から得られる大きな温度差など総合的な判断から実用的な熱電材料としての可能性が示されました。高温域で熱電性能を示す特性は、溶融塩法によりWBが新たな構造に変化し、イオン交換などの伝導が促進されたためと考えられます。現状のZT値は既存材料に劣るものの、WBは環境に優しく資源効率の観点から有望です。今後は詳細な結晶構造の解明とさらなるZTの向上及び熱電モジュール開発に取り組む予定です。
 本研究は、環境に優しい資源を活用し、高温でも動作する熱電材料の実用化を目指す一歩となりました。

謝辞

本研究は、北海道科学大学、和歌山大学、筑波大学との協力の下、JSPS科研費(JP22K19001)の助成を受けて行われたものです。


著者(研究者)情報

著者(研究者)氏名 | 本田 充紀
物質科学研究センター アクチノイド科学研究グループ

参考文献

Honda, M. et al., Sustainable Thermoelectric Materials: Utilizing Fukushima Weathered Biotite via Molten Salt Treatment, AIP Advances, vol.14, issue 5, 2024, 055034, 6p.

外部論文: https://doi.org/10.1063/5.0206317

公開日 2025年 3月 10日

 中性子及び放射光利用研究 

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