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GPUを駆使して流体解析と観測データを高速に同化する手法の開発


図1 データ同化の模式図

図1 データ同化の模式図

(a)データ同化(局所アンサンブル変換カルマンフィルタ; LETKF)では、観測値と多数のシミュレーション解の統計量から最も確からしい状態を推定する手法(最尤推定)を用いてデータ同化の解を求めます。(b)LETKFでは多数の行列の固有値分解を計算します。本研究では、これを複数GPUに分散して高速に解くコードを開発しました。


 データ同化は、数値シミュレーションに現実の観測データを取り込み、シミュレーションの予測精度を向上させる手法です。天気予報の分野を中心に発展してきた手法ですが、数値流体力学(CFD)解析にも適用され始めたことで、幅広い科学・工学分野への応用が期待されています。
 高精度なデータ同化手法の一つとして局所アンサンブル変換カルマンフィルタ(LETKF)がありますが、LETKFでは多数の行列を解く処理の計算速度が問題になります。今回、原子力機構と理化学研究所(理研)は共同で、LETKFを画像処理装置(GPU)で高速に計算するためのコード開発を行いました(図1(a)(b))。
 LETKFでは、条件の異なる複数のシミュレーション(アンサンブル計算)を行なったのち、アンサンブル計算から平均や分散などの統計量を求めます。この統計量を基にデータ同化を行いますが、その際にCFDの格子点数(数万〜数億)と同じ数だけの行列の固有値分解を解く必要があり、この処理が実行時間の大部分を占めます。本研究では、理研が本問題の行列に特化した固有値分解ソルバ「EigenG-Batched」を開発し、原子力機構が複数GPU間のデータ通信の最適化を行いました。これらにより、GPU計算機「Wisteria-Aquarius」(東京大学)の64GPUを用いた計算において、最適化前の実装に比べて45倍の高速化を達成しました。


謝辞

本研究の一部は、JSPS科研費(若手研究:JP21K17755)及び学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点(JHPCN:jh210049, jh220030, jh220031)の支援を受けて行われ、理化学研究所との共同研究「大規模並列行列計算ライブラリの研究開発」として実施した成果の一部です。計算には東京大学情報基盤センター「Wisteria/BDEC-01 スーパーコンピュータシステム」を利用しました。


著者(研究者)情報

著者(研究者)氏名 | 井戸村 泰宏
システム計算科学センター HPC・DX基盤技術開発室

参考文献

Hasegawa, Y., Imamura, T., Ina, T., Onodera, N., Asahi, Y., Idomura, Y., GPU Optimization of Lattice Boltzmann Method with Local Ensemble Transform Kalman Filter, Proceedings of 2022 IEEE/ACM Workshop on Latest Advances in Scalable Algorithms for Large-Scale Heterogeneous Systems (ScalAH), Dallas (online), U.S.A., 2022, p.10‐17.

外部論文: https://doi.org/10.1109/ScalAH56622.2022.00007

公開日 2025年 1月 30日

 システム計算科学研究 

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