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鉄鋼材料の脆化要因となる水素の挙動解析
−昇温脱離スペクトルを数値シミュレーションして水素トラップ状態を推定する−


図1 a)水素のγ相や他の欠陥による捕獲状態と脱離の概念図、及び(b)γ相を含む鋼材試料の水素昇温脱離スペクトルの数値計算に基づく解釈

図1 (a)水素のγ相や他の欠陥による捕獲状態と脱離の概念図、及び(b)γ相を含む鋼材試料の水素昇温脱離スペクトルの数値計算に基づく解釈

(b)内の記号〇、▲、■、●は、鉄鋼試料中の水素含有量が異なる場合それぞれの測定スペクトルを表し、実線はそれらに対するフィッティング曲線を表します。

 高強度鋼は高層ビルや自動車などで使われています。近年では、変形が容易なγ相を硬い鉄鋼組織中に分布させ、加工を容易とした高強度な複合材料が開発されています。一方、高強度鋼では、内部に侵入した水素で劣化が起こる水素脆化が顕著となり、カーボンニュートラルな水素社会の実現において深刻な問題となっています。特に複合材料ではγ相表面などに水素が集中し劣化しやすい傾向があります。
 水素はγ相表面の他に様々な欠陥に捕獲されるので、実際にγ相表面への水素の集中を調べるため、鉄鋼を徐々に加熱し、様々な欠陥から異なる温度で放出される水素が表面から脱離する量と温度の関係(昇温脱離スペクトル)を測定することで、欠陥による水素捕獲状態を推定します。図1は、昇温脱離スペクトルの数値シミュレーションからγ相を含む鉄鋼中の水素捕獲状態を推定した結果です。脱離ピークの温度や高さが欠陥の水素捕獲状態と関係しています。これから、鉄鋼中の水素が少ないときは、γ相表面や内部は水素を捕獲しないが、多くなると捕獲するようになること、γ相内部は比較的低い温度で水素を放出するので、γ相表面より捕獲する力が弱いことが分かりました。この結果から、γ相は高強度鋼の性質を改善するが、その内部や表面の水素脆化への影響の精査が必要と考えられます。

謝辞

本研究は、JSPS科研費(JP19K05069)基盤研究(C) 「計算科学手法を用いた空孔型欠陥の定量的評価に基づく水素脆化モデルの検証」において、上智大学及び日本製鉄と連携し実施されました。


著者(研究者)情報

著者(研究者)氏名 | 海老原 健一
システム計算科学センター AI・DX基盤技術開発室

参考文献

Ebihara, K et al., Numerical Interpretation of Thermal Desorption Spectra of Hydrogen from High-Carbon Ferrite-Austenite Dual-Phase Steel, International Journal of Hydrogen Energy, vol.48 issue 79, 2023, p.30949-30962.

外部論文: https://doi.org/10.1016/j.ijhydene.2023.04.205

公開日 2024年 11月 20日

 システム計算科学研究 

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