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核鑑識のための電子顕微鏡画像解析による核物質分類と未知物質の検出
−深層距離学習モデルを使用した新しい核物質異同識別手法−


図1 深層距離学習により訓練されたCNNモデルによる核物質電子顕微鏡画像の識別

図1 深層距離学習により訓練されたCNNモデルによる核物質電子顕微鏡画像の識別

小正方形に分割された核物質の電子顕微鏡画像はCNNモデルにより多次元空間に投影され、既知物質画像の代表点からの距離に基づいて未知物質が検出されます。UOC-3を仮想的な未知物質とした図1(a)の例では、多次元空間における既知物質画像の代表点の位置がUOC-1: 0(), UOC-2: 1()で表され、個々のテスト画像の位置がUOC-1: 0, UOC-2: 1, UOC-3: 2 で表されています。この中で、UOC-3のテスト画像(2)の大半が既知物質画像のテスト画像(0, 1)の代表点から離れた位置に分布しています。このことから、UOC-3は未知物質である可能性が高いと推定されます。


 テロや犯罪などの現場から押収された核物質や放射性物質の起源等を物質自身の特徴から決定する核鑑識分析技術開発の一環として、電子顕微鏡などで観察できる形態学的特性を畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network: CNN)と呼ばれるモデルで解析することで高精度に核物質を識別する手法の開発を進めています。
 CNNモデルは画像を高い精度で分類することができる一方で、訓練データにない未知の物質を精度良く検出することが難しいことが知られています。これは、未知物質試料を取扱う可能性がある核鑑識分析において深刻な問題となります。そこで、顔認証の分野で研究が進められている「深層距離学習」と呼ばれるアプローチをCNNモデルの訓練に適用することで、電子顕微鏡画像解析から核物質の分類と未知の物質の識別を同時に実現する技術を実現しました(図1 a)。
 天然ウラン精鉱(Uranium Ore Concentrate: UOC)の標準物質を用いた本技術の検証により、深層距離学習で訓練したCNNモデル(深層距離学習モデル)が非常に高い精度でUOCを分類するとともに、通常の学習方法で訓練したモデルよりも高い精度で未知物質を検出できることを実証しました(図1 b)。
 本技術により、核鑑識分析において核物質を識別するための効果的な根拠の一つとして、電子顕微鏡画像を利用できるようになることが期待されます。
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  • ● 通常のCNNモデルと深層距離学習モデルの違いについて

     CNNモデルは入力画像における局所的な特徴を抽出したベクトル(特徴量ベクトル)に変換し、画像データを特徴量空間と呼ばれる多次元空間における座標点として扱うことで分析を行います。例えば画像分類を行う場合、特徴量ベクトルは任意関数によりLogitsと呼ばれる最終的な予測値に変換され、LogitsをSoftmax関数に入力することで個々の画像種別(クラス)に所属する確率が算出されます(図2 a)。
     本研究で応用した深層距離学習は、特徴量ベクトルをLogitsに変換する「Head」と呼ばれる部分を特殊な構造に変更することで、CNNモデルの画像識別性を向上させる最適化手法です。深層距離学習モデルは、種別が異なる画像間の距離を大きくし、同種別画像間の距離を小さくするように画像を特徴量ベクトルに変換することができるようになります。これにより、既知物質の画像と未知物質の画像を明確に識別することが可能となります(図2 bは通常のCNNモデルと深層距離学習モデルによる特徴量ベクトル変換をイメージで示したものです)。深層距離学習モデルはクラス確率も算出することができますので、通常のCNNモデルと同様に画像分類に供することもできます。

  • 図2  一般的なCNNモデルと深層距離学習モデルの違い

    図2 一般的なCNNモデルと深層距離学習モデルの違い


  • 謝辞

    本研究は、文部科学省「核セキュリティ強化等推進事業費補助金」事業の一環で実施したものです。


    著者(研究者)情報

    著者(研究者)氏名 | Yoshiki Kimura
    核不拡散・核セキュリティ総合支援センター 技術開発推進室

    参考文献

    公開日 2025年 2月 14日

     核不拡散・核セキュリティ技術開発 

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