トピックス
光ファイバを用いた1F高線量率場の放射線分布測定に成功
−光の波長分解分析に基づく新手法の初実証−
図1 (a)1F2号機原子炉建屋空調室での放射線分布測定試験セットアップ、(b)測定試験の様子、(c)放射線分布逆推定結果と実際の線量率分布の比較
本センサを用いた1F2号機における実証試験の様子と結果を図1に示します。PSFを1F2号機原子炉建屋空調室の高線量率場に敷設し、室外の低線量率の場所に設置した分光器で波長(色)スペクトルを測定しました。このスペクトルを解析することで、図1(c)の通りPSFに沿って放射線分布を逆推定することができます。図1(c)では放射線分布の逆推定結果は、サーベイメータによって得られた「終端に向かって急激に線量率が上昇する」という実際の傾向(最大線量率100 mSv/h超)を良好に再現しています。このことから、本センサの1F実環境での有効性を確認できました。
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(1)原理
本研究で提案する新方式波長分解分析法の概念図を図2に示します。プラスチックシンチレーションファイバ(PSF)と放射線の相互作用により発生するシンチレーション光を分光器で受光し、波長分解を行います。ここで、PSF内を透過する光の減衰量には波長依存性が存在するため、PSF端から出力される光の波長(色)スペクトルを分析することで、元の放射線入射位置を逆推定可能です。これにより、従来ファイバ両端での受光が必須であった光ファイバ型放射線位置検出器が片側のみからの光読出しで実現可能になります。さらに、本手法は放射線一発一発のパルスカウンティングを行わない積分型の測定手法であるため、パイルアップや偶然同時計数が原理的に発生せず、超高線量率にも適用可能です。
図2 本研究で提案する新方式波長分解分析法の概念図
本研究では波長スペクトルからの放射線分布逆推定にアンフォールディング法を適用します。ある任意の放射線分布を測定した際に光ファイバ片側で測定される波長スペクトルは、以下の式(1)で表すことができます。
ここで、λは光の波長、x は光ファイバ内での光子透過距離、S(λ) はファイバ端で測定された波長スペクトル、I(λ) は発光初期の波長スペクトル、μ(λ) は波長λ の光の減衰長(光強度が 1/e まで減少する長さ)、f(x) は放射線分布、R(λ,x) は応答関数行列です。ここで、応答関数行列 R(λ,x) は事前に実験的に求めることができるため、波長スペクトル S(λ) から放射線分布 f(x) を逆推定可能です。逆推定を行う上で、式(1)を式(2)の通り位置ごと・波長ごとに離散化し、行列式として記述します。
ここで、i は波長範囲、j は光ファイバ発光位置、Si はファイバ端で測定された波長スペクトルの波長範囲 i のスペクトル強度、Ri,j は位置 j にて発光した際に光ファイバ端の分光器で測定される波長スペクトルの波長範囲 i のスペクトル強度を表す応答行列、Xj は位置 jでの放射線強度です。ここでのアンフォールディング処理は、以下の式(3)で表されるカイ二乗 χ2 を最小化する X1 - Xj の組合せを最適化計算手法により探索する処理です。
X1 - Xj の最適化計算処理には、1F事故直後の環境放射線スペクトル解析の研究で応用実績のある一般縮小勾配法(Generalized Reduced Gradient 法、GRG法)を用いました。
(2)検出器製作
本研究で製作した光ファイバ型放射線位置検出器を図3に示します。本検出器はセンサ部にプラスチックシンチレーションファイバ(PSF, Kuraray SCSF-81, Φ1.0 mm, 長さ10 m)、光伝送部に石英光ファイバ(Thorlabs FP400URT, Φ0.4 mm, 任意長さ)、受光部にポータブル分光器(Ocean Insight QEPro, スリット幅200 μm)の3要素から構成されます。ここで、分光器のCCDは放射線にさらされるとスパイク状のノイズが波長スペクトルに混入するため、低線量率場に設置する必要があります。そのため、高線量率場に設置するPSFからの発光を任意長さの石英光ファイバで読み出す方式としました。まず初めに、長さ10 mのPSF素線の読出し側を垂直研磨、非読出し側を斜めに研磨しました(非読出し側での反射を防止)。次に、PSF素線を石英光ファイバ及び分光器に接続し、PSFに対してUV光をコリメート照射することでPSFを疑似的に励起発光させました。これを10 cmまたは50 cm間隔で実施し、発光位置ごとに分光器で得られる応答波長スペクトルを取得しました。最後にPSF素線を遮光チューブに封入し、エポキシ樹脂により読出し側をSMA905コネクタと接着させ、図3に示すPSFパッチケーブルとしました。
図3 製作した波長分解分析法に基づく光ファイバ型放射線位置検出器
(3)1F2号機原子炉建屋SGTS室での実証試験
製作した検出器について137Cs及び60Coガンマ線照射場において照射試験を実施し、検出感度及び耐放射線性の確認を行いました。その結果、数十mSv/h以上の線量率に対して十分な感度を有すること、最大で10 Sv/h以上の高線量率場に適用可能であることを確認しました。1F原子炉建屋内で想定される線量率域にて十分使用可能であることが確認できたため、この光ファイバ型放射線位置検出器を用いて1F2号機原子炉建屋SGTS(Standby Gas Treatment System、非常用ガス処理系)室内にて放射線分布測定試験を実施しました。測定セットアップ、測定試験の様子、放射線分布逆推定結果と線量率測定結果の比較を図4に示します。1F2号機SGTS室内の高線量率エリア床面(最大線量率100 mSv/h超)に伸縮棒を用いて長さ10 mのPSFを敷設し、長さ30 mの石英光ファイバを介して室外の低線量率エリアに設置した分光器で波長スペクトルを測定しました。得られた波長スペクトルにアンフォールディング法を適用した結果、光ファイバ終端側にかけて線量率が急激に上がっていくという実際の放射線分布傾向を再現しました。このことから、最大で100 mSv/h超の1F実環境にて本研究で製作した光ファイバ放射線位置検出器の有効性を確認できました。
図4(a)1F2号機原子炉建屋SGTS室における測定セットアップ、(b)測定試験の様子、(c)放射線分布逆推定結果と線量率測定結果の比較
謝辞
本研究は、JSPS科研費(JP22K18129)の助成を受けたものです。
著者(研究者)情報
著者(研究者)氏名 | 寺阪 祐太 | |
福島廃炉安全工学研究所 廃炉環境国際共同研究センター 放射線デジタルグループ |
参考文献
公開日 2024年 9月 26日
福島第一原子力発電所事故の対処に係る研究開発(廃止措置に向けた研究開発)