11.5 地下水中の溶存状態を調べて放射性核種のふるまい予測


図11-13 海水系地下水からの腐植物質の分離精製操作

腐植物質は高分子電解質の有機酸で、天然水ではフミン酸とフルボ酸により構成されています。地下水中の微量な腐植物質は、非イオン性の多孔質樹脂を用いて600 lの海水系地下水から分離し、イオン交換樹脂により精製しました。写真は精製操作後、凍結乾燥した粉末状の腐植物質試料です。色の濃淡は構造の違いに起因しています。海水系模擬地下水に溶存させた場合、5千ダルトン(約2 nmに相当)以下の分子サイズの割合は、茶褐色のフミン酸が43%、茶色のフルボ酸が81%とフルボ酸の方がより分子サイズの小さい有機物で構成されています。

 


図11-8 地下水腐植物質が存在した場合としない場合のPu及びAmの分子サイズ分布

地下水から分離精製した腐植物質(フミン酸、フルボ酸)を10 mg/ lの濃度になるように海水系模擬地下水に溶解させ、Pu及びAmを添加して、限外濾過法によりPu及びAmの分子サイズ分布を調べました。地下水腐植物質がアクチニド元素と錯形成していることを判断するために、腐植物質を含まない海水系模擬地下水についても同様な実験を行いました。PuとAmについては、地下水腐植物質の存在により、溶存態(分子サイズが450 nm以下に相当)の割合が増加することが明らかとなりました。

 


 放射性廃棄物処分の安全評価においては、地下水を移行する放射性核種の溶存形態を推定し、地中における放射性核種のふるまいを評価する必要があります。地下水中の放射性核種にはいくつかの溶存形が考えられますが、近年、放射性核種の移動性を高める有機物との錯体の存在が着目されています。特に、プルトニウム(Pu)のようなアクチニド元素については、地下水中の有機物との錯形成が指摘され、その影響が危惧されています。このため、地下水中の溶存有機物の大部分を占め、アクチニド元素との錯形成能が高い有機物の1種の腐植物質に着目し、大量の地下水から分離精製した腐植物質(図11-13)を用いて、アクチニド元素との錯形成特性を分子サイズの観点から調べました。
 海水系模擬地下水においてPu、アメリシウム(Am)は腐植物質の存在により、溶存態の割合が増加しました(図11-14)。これは、Pu、Amと腐植物質が錯体を形成したためと考えられます。また、Pu、Amでは錯形成する腐植物質の分子サイズが異なっています。そのため、放射性核種の地中における移行性は、地下水に溶存している有機物により異なる可能性が示唆されます。これまでの研究では、地下水から分離精製した腐食物質を用いた検討は少なく、アクチニド元素と有機物との錯体の移動性を左右する分子サイズを基にした報告例はありませんでした。そのため、これらの成果を基にして、地下環境におけるより現実に近い放射性核種の存在状態及びそれらのふるまいを予測、評価することが期待されます。


参考文献

S. Nagao et al., Molecular Size Distribution of Np, Pu and Am in Organic Rich, Saline Groundwater, Understanding and Maraging Organic Matter in Soils, Sediments and Waters, 525 (2001).

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