4.1 核子の中のクォークの離合集散が見えた
―高エネルギーガンマ線でファイ中間子発生を確認―
 


図4-1  発生荷電粒子の質量スペクトルとφ中間子発生の確認

(a)1.6〜2.4GeVの高エネルギーガンマ線をポリエチレン標的(CH2-CH2nに照射し、光核反応で発生した荷電粒子の質量識別スペクトル。ピークはそれぞれ左からΚ-、π-、π+、Κ+、陽子、重陽子、トリトンが発生している事象。
(b)Κ-とΚ+中間子の同時事象を観測し、エネルギーと運動量から得られた不変質量スペクトル。ピークはφ中間子に対応し、その質量は1019 MeV/c2



核子と呼ばれる陽子や中性子は半径10-15 m程度の大きさです。当然、その中に何か小さなものが詰まっています。それはクオークやグルーオンと呼ばれるものです。アップとダウン・クオークは点として取り扱えますが、質量は5〜10 keV/c2程度の軽さであるとして良いとのことです。それでは、ほぼ1 GeV/c2の質量を持つ陽子や中性子の、大半の質量はどれが担うのか? グルーオンが無数のクオークと反クオークになって担うのか、それとも150 MeV/c2と予想されるストレンジ・クォークと反ストレンジ・クォーク対が陽子中にあるのでしょうか?
私たちは西播磨大型放射光施設SPring-8で1.6〜2.4 GeVの逆コンプトン・ガンマ線を創り出し、このガンマ線照射によって生成されるファイ(φ)中間子を観測することによって、核子中のクォーク構造を探ろうとしています。図4-1(a)はポリエチレン標的に逆コンプトンガンマ線を照射したときに観測された発生荷電粒子の質量スペクトルです。陽子(p)、重陽子(d)、三重水素原子核(t)、それ以外に、正と負電荷のパイ(π)中間子両方がほぼ同じ収量で観測されています。π+中間子はγ+p→π++n、またπ-中間子はγ+n→π-+p反応でできます。ストレンジ・クォークを含むΚ中間子も観測されました。Κ+中間子はγ+p→Κ++Λ、またはγ+p→Κ+0のストレンジ・クォーク発生反応から作られます。φ中間子発生ではγ+p→φ+pでφ中間子が発生し、その直後にストレンジ・クォークと反ストレンジ・クォーク対が真空からアップ・クォークと反アップ・クォーク対を誘発し、最終的にΚ+とΚ-粒子の2個の中間子が発生します。Κ-粒子とΚ+粒子を同時に観測し、φ中間子の質量に対応するエネルギーに質量スペクトルのピークが現れることでφ中間子発生を確認しました(図4-1(b))。φ中間子は、核子中のストレンジ・クォークと反ストレンジ・クオークがガンマ線で叩きだされることにより生じます。SPring-8での逆コンプトンガンマ線は世界最高エネルギー偏極ガンマ線です。陽子や中性子を構成しているアップ・クォーク、ダウン・クォークに加えて、ストレンジ・クォークの果たす役割解明への最終目標に向けて、また一歩前進しました。



参考文献
M. Fujiwara, Photo-Nuclear Reactions at SPring-8, Nucl. Phys. News, 11(1), 28 (2001).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果 2001
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