4.4 非晶質炭素薄膜の中からナノダイヤモンドを発見
 


図4-6 室温で、100eVの12C+イオンをIr基板に入射して合成したsp3非晶質炭素薄膜の昇温テストの光学顕微鏡写真

黒青部が非晶質炭素部で、円状のコントラストを持っているのが非晶質炭素が剥離した部分。


図4-7  円状コントラスト部の原子間力顕微鏡像

図4-6の円状コントラスト部を原子間力顕微鏡で拡大観察したもので、中心部の針状突起は顕微ラマン分光測定からダイヤモンドであることが明らかになりました。


炭素系物質は、住環境に適合した素材から、ナノテクノロジーの展開に必要な材料まで存在します。なかでもダイヤモンド薄膜は、広くその利用が期待されています。
私たちは、イオンビーム蒸着法の衝撃効果を利用した炭素系薄膜の合成を行ってきました。この方法では、100 eV程度のイオンを超高真空中に置かれた基板に軟着陸させます。蒸着の様々な因子を最適化し、ダイヤモンドの結合様式であるsp3結合の割合の高い薄膜の合成を目指しました。
室温で100 eVのC+を蒸着すると、sp3結合の割合が80%にも達する“ダイヤモンド様”非晶質薄膜が得られました。それではこの薄膜の耐熱性はどうなるでしょうか? ケイ素(Si)基板上に室温で合成したsp3非晶質膜は、700度以上で黒鉛化が始まりましたが、イリジウム(Ir)基板の場合は全く事情が異なりました。400度付近までの加熱で、非晶質薄膜の円状脱離が生じましたが、残りの部分は依然sp3結合のままです。その後の高速な冷却過程で、円状脱離の周囲には、変形の不安定化に起因する微小な膨れが菊の花状に形成されました(図4-6)。円状脱離のひとつを原子間力顕微鏡で拡大観察しますと、図4-7のように、中心部に平均直径200 nm程の針状突起が観察されました。この針状突起は基板の結晶粒界にあり、顕微ラマン分光測定から、ナノダイヤモンドであることが明らかになりました。
これらの観察結果から、イオンビーム蒸着によりIr基板表面付近で過飽和状態になったCは、結晶境界で選択的に核生成して、格子が整合するダイヤモンド結晶を形成したものと理解されます。
ここで示したナノダイヤモンドの構造は、そのまま高輝度電子銃などとして応用可能な形態をしています。さらに、ダイヤモンドの核生成点の自己組織化過程を利用して配置する方法を開発し、電子銃、あるいはマイクロレーザーを空間規則配置した新規機能素子としての利用へ向けた研究の夢を膨らませています。



参考文献
H. Naramoto et al., Modification of Carbon Related Films with Energy Beams, Proc. of Materials Research Society, Nov. 25, Boston, 2000, 647, 05. 18. 1 (2001).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果 2001
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