5.3 階層型核燃料サイクルで
長寿命放射性物質の蓄積を大幅に抑制
 


拡大図(72KB)

図5-4  階層型核燃料サイクル概念(加速器駆動炉1基当たり、1年間のマスフロー)

商用発電炉燃料サイクルはウランやプルトニウム燃料をリサイクルする通常の燃料サイクルです。核変換燃料サイクルは、高レベル放射性廃棄物に含まれるマイナーアクチノイド(MA)や長寿命核分裂生成物をリサイクルして、短寿命または安定な物質へと核変換する小規模な燃料サイクルです。


図5-5  発電容量の推移と、核変換しない場合のMA、ヨウ素の蓄積量

原子力発電容量は2100年頃に140 GWe(100万kW原子炉140基に相当)で飽和すると想定します。発電炉型については種々のオプションが考えられますが、ここでは、全期間を通じて、ウラン酸化物(UO2)燃料の軽水炉が80%、ウラン−プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の軽水炉が20%の割合とします。燃料によってMA生成量は異なり、UO2燃料軽水炉で約24 kg/年、MOX燃料軽水炉で約78 kg/年です。


図5-6  加速器駆動炉の導入と、核変換燃料サイクル中のMA、ヨウ素重量

群分離を2020年に開始し、核変換を2030年に開始すると想定します。加速器駆動炉の導入によって、MAとヨウ素を一定値に抑えられます。



階層型核燃料サイクル(図5-4)の特徴は、従来の商業用発電炉燃料サイクルに加えて、そこから発生する高レベル放射性廃棄物(HLW)中のマイナーアクチノイド(MA)等長寿命放射性物質を核変換する小規模な核変換燃料サイクルを設けることです。これによって、従来の燃料サイクルに大きな変更を加えることなく、長寿命放射性物質処分の問題を大幅に緩和できるものと期待されます。原研では、核変換に用いる加速器駆動炉(ADS)の概念構築を行いました。1基のADSで年間250 kgのMAと50 gの放射性ヨウ素I-129を核変換できます。これは、ウラン酸化物燃料を使用する100万kW軽水炉10基から毎年発生する量に相当します。また、群分離、乾式分離、製造等の要素技術は工学的実証の段階です。
ADSを中心とする核変換燃料サイクルを導入することによって、長寿命放射性物質の蓄積を効果的に抑制できることを明らかにしました。将来にわたって軽水炉のみで発電を行い、そのうち20%でMOX燃料を使用する長期原子力発電計画を想定します。核変換を行わない場合には、地層処分されるMAとI-129の蓄積量は2200年に、それぞれ、870トン、120トンにも達し、その後も増加し続けます(図5-5)。一方、核変換を行えば、2100年以降でもMAおよびI-129の蓄積量はそれぞれ160トン、30トンとほぼ一定に抑えられ、しかもそれらは核変換燃料サイクル内に留まります(図5-6)。その結果、地層処分する長寿命放射性物質は核変換を行わない場合の1/100程度に減少します。
核変換燃料サイクルの導入により、長寿命放射性物質の蓄積量が抑制され、最終処分量を大きく減少できることが示されました。現在、この核変換燃料サイクルの実現に向って研究開発を鋭意進めています。



参考文献
西原健司 他,階層型核変換システムにおけるMAの蓄積と核変換のマスバランス,JAERI-Research 99-074 (1999).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果 2001
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