6.1 アクチノイド分離用の新抽出剤を開発
―全てのアクチノイドを高効率で分離―
 


図6-1  アクチノイド抽出に有効な抽出剤の分子設計


図6-2  有力なアクチノイド用抽出剤の比較(有機相:0.1 M抽出剤-n-ドデカン)

抽出剤の抽出能力を表す場合に、抽出された度合いを示す分配比Dを用います。



使用済核燃料を再処理した後の廃液には、核分裂生成物(FP)とともに長寿命のアクチノイド元素(An)が含まれています。放射性廃棄物処分に伴う環境への負担軽減化いう観点から、AnをFPから分離することが望まれます。再処理プロセスでU(VI)およびPu(IV)の分離に用いられるTBP(リン酸トリブチル)抽出剤は、反応性の小さな3価および5価のAnイオン{アメリシウムAm(III)、キュリウムCm(III)、ネプツニウムNp(V)など}の抽出分離には不十分であり、これらのイオンに対してより強い配位特性を示す抽出剤の開発が待たれていました。
抽出剤の条件としては、(1)Anを高効率で硝酸水溶液から有機相に抽出し FPと分離できること、(2)希釈剤n-ドデカンへの溶解度が大きいこと(親油性)、および(3)焼却すると気体(水を含む)のみを生じ完全処分が可能なこと、などがあります。
私たちは、これら3条件を満たす新An抽出剤開発のスタート物質としてマロンアミド(MA;図6-1)を選択しました。図6-2からわかるようにMAは(1)の観点で性能が劣ります。抽出剤分子の酸素がアクチノイドなどと結合することが知られておりますので、新たにもう一つの酸素を分子中に導入することにしました。MAのいくつかの部位に酸素を導入して比較した結果、図6-1のように2つのカルボニル基(C=O)の間にエーテル基(-O-)を導入したとき、この酸素がカルボニル基とともにAnに結合することをX線分析により初めて確認しました。アクチノイドと結合した抽出剤はこれまでになく安定な化合物(錯体)であることもわかりました。次に、両端の炭素鎖の長さと抽出効率および親油性の関係を求め、炭素数8個のオクチル基が最適であることを見出しました。このようにして分子を設計することにより、高効率のAn抽出剤N,N,N’,N’-tetraoctyl-3-oxapentane-1,5-diamide(略称Tetraoctyl diglycolamide、通称TODGA)を開発することに成功しました。
図6-2ではAm(III)の抽出を例に、TODGAと既存の抽出剤CMPO、MAの性能を比較しました。硝酸濃度1 M以上では、新抽出剤TODGAが既存の抽出剤よりはるかに優れた抽出効果を示し、優れた抽出剤であることがわかります。



参考文献
Y. Sasaki et al., The Novel Extractants, Diglycolamides, for The Extraction of Lanthanides and Actinides in HNO3-N-Dodecane System, Solv. Extr. Ion Exch., 19(1), 91 (2001).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果 2001
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