6.3 高エネルギー粒子ビームで探る原子核の形
―クーロン励起による完全核分光実験の実現―
 


図6-5  原子核の運動と変形

一般に核子(中性子、陽子)が特定の数(魔法数)に近いと1粒子運動が主になり、離れると集団的回転・振動が起きます。この中間的原子核では、球形や様々な変形を取ることができます。また、励起状態ごとに変形が異なることがあります。


多重ガンマ線検出装置 GEMINI


図6-6  タンデム加速器施設における完全核分光実験

多重ガンマ線検出装置GEMINIの中心におかれたターゲットに重イオンビームを照射し、散乱された粒子とガンマ線を同時測定して得られる相関情報から、全ての励起状態間のガンマ線転移強度を決定できます。


図6-7  70,72,74,76Geアイソトープの変形状態

横実線は励起エネルギーで表した原子核の個々の状態で、両端の数字は角運動量を表します。パリティは全て+。似た内部構造を持つ状態を破線で結びました。完全核分光実験により、各アイソトープの基底状態、励起状態は球形(赤)とラグビーボール型変形(青)という2つの変形状態に分類されることがわかりました。このようにひとつの原子核で異なる変形状態が現れる現象を変形共存と呼びます。



原子核の大きさは10-12 cmオーダーで、原子の約1万分の1の大きさですから、原子核の形状は電子顕微鏡などを使っても見ることはできません。よって、これまでは原子核の励起状態の構造から、核模型に基づいて、原子核が丸いとか、変形しているとかを(図6-5)類推してきました。しかしながら、原子核を十分よく記述できる核模型はまだ無く、いくつかの核模型によって、その内部構造や形の解釈が異なっていました。
最近私たちは、クーロン励起を用いた完全核分光実験において、核模型によらずに、核変形を精度よく決定する手法を開発することに成功しました。これは、調べたい原子核をビームにして鉛ターゲットに当てると(図6-6)、原子核がクーロン力で励起されますが、その励起過程を調べることにより、全ての低励起状態間のガンマ線転移の強さ(電磁気的転移行列要素)を決定でき、これから変形を表す物理量が直接得られることに基づきます。事実私たちは、東海研タンデム加速器において多重ガンマ線検出装置“GEMINI”を用いて、ゲルマニウム(Ge)アイソトープに対する完全核分光実験を行い、2 MeVまでの全ての励起状態の変形度を求めることができました。
この解析から、図6-7のようにこれらの原子核には、球形とラグビーボール型という異なった形を持つ状態が共存していること、また各アイソトープの準位構造の変化は2つの変形状態の異なる振る舞いに起因することを見い出しました。



参考文献
Y. Toh et al., Coulomb Excitation of 74Ge beam, Eur. Phys. J. A9, 353 (2000). 博士研究員

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果 2001
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