6.5 ナノマテリアル研究への道を拓く分子イオン照射技術開発
 


図6-11  イオン照射により生成するクラスターの質量スペクトル

イオン照射によってSi表面から脱離したクラスターの質量スペクトルを示しています。SF5+照射で他の照射イオンに比べて特に高い強度でクラスターが得られることがわかります。(図中の×5、×10はそれぞれ強度を5倍および10倍していることを示します。また、Sin+はn個の原子からなるクラスターイオンであることを示します。)


図6-12  いくつかのイオンをSiに照射した場合のSiクラスターの生成量(相対値)

各種イオンを同じ速度で照射した場合の相対生成量(Si=1)をクラスターの個数に対して示しています。SF5+照射では他よりも非常に高い値を示し、Si6クラスターの生成量は、Ar+照射の場合の100倍以上、SF5+とほぼ同じ質量のXe+と比較しても数十倍になります。


図6-13  イオンを照射したときの表面励起領域の違い(模式図)

分子イオン照射では、衝突により生じる励起領域は図のように大きく広がります。このため原子の脱離が容易となり、クラスターの生成も顕著になります。


クラスターは数個から数百個の原子が集まってできた、直径“数ナノメートル”程度の粒子です。同じ原子が集まったものでもこのくらいの大きさになると、導電性や発光特性など、様々な物性が通常の“バルク物質”とは異なってきます。これまで、クラスターは主にレーザーや電子ビームをターゲットに照射して作られてきました。これに対し、イオンビームを使えばイオンとターゲットとの反応を利用して、バルク物質では得られない組成のクラスターを作ることができます。しかし、クラスターの生成効率が悪く、十分な量を得るためには非常に高い輝度のビームが必要でした。私たちは、SF5+のように少し大きな分子イオンをSiに照射することにより、他のイオンに比べて顕著なクラスター生成を見い出しました(図6-11)。この結果、1 µA/cm2程度のビームでもこれまでの100倍以上の効率でクラスターを取り出すことに成功しました(図6-12)。大型の分子イオンが固体表面に衝突すると、表面の励起領域は図6-13のように原子イオンの場合より大きく広がります。この結果、原子の脱離が促進されクラスターの生成効率が高くなったものと考えます。Siの他, C, B, Beなど種々のターゲットでも、顕著なクラスター生成を観測しました。さらに、C6F5+など炭素を含む分子イオンをSiに照射すると、Si-Cのような二元系クラスターを生成できることもわかりました。多元系クラスターや同位体クラスターのように、全く新しい物性を持つと予想されるナノスケールの素材作製にも道が拓けると期待しています。



参考文献
H. Yamamoto et al., Silicon Cluster Formation by Molecular Ion Irradiation -Relationship between Irradiated Ion Species and Cluster Yield-, Appl. Surf. Sci., 178, 127 (2001).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果 2001
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