8.3 夢の物質「グラファイト構造の窒化炭素」を放射光で確認
 


図8-5  窒化炭素のX線吸収スペクトル

グラファイトに窒素分子イオンをイオン注入し、800℃でアニールして合成した窒化炭素固体の窒素のX線吸収スペクトルです。X線が浅い入射角(下の方)から深い入射角(上の方)になるにつれa, b, c 3つのピークの大きさが変化することがわかります。


図8-6  窒化炭素固体中の局所構造

図8-5のピークa, b, c に対応する局所構造の模式図です。グラファイトの中で様々な結合状態をとる窒素原子の様子が示され、特にグラファイトの炭素原子が窒素原子で置き換わった構造(窒素置換グラファイト構造)が存在することを実験的に証明することに成功しました。



ダイヤモンドよりも硬い物質や原子1個分の厚さしかない半導体、このような夢の材料を実現するものとして、炭素と窒素の化合物(窒化炭素)は大きな注目を集めています。世界中の研究者が競ってその合成に取り組んでいますが、これまでどんなものが実際にできるのかよくわかりませんでした。その主な原因は、合成したものの中には様々な局所構造がばらばらに含まれているため、構造が揃った結晶を調べる従来のやり方では、限界があったからです。放射光は、このような構造を調べるのに大きな力を発揮しました。放射光の大きな特徴であるエネルギー可変性は、物質中に含まれる特定の元素だけのX線吸収スペクトル(NEXAFS)を調べることを可能にします。NEXAFSはX線を吸収した部位の局所構造に応じて変化しますから、窒化炭素中の窒素のNEXAFSにより、窒素原子周囲の局所構造について調べることができます。さらに、放射光の偏光特性を用いた入射角によるNEXAFSの変化(偏光依存性)から、局所構造の向きを調べることが可能になります(図8-5)。
これらの特徴により、私たちは、窒素分子イオンを注入したグラファイト中に、窒素置換型のグラファイト構造が存在することを明らかにしました(図8-6)。このグラファイト構造の窒化炭素は理論的に半導体的な電子特性を持つことが予測されており、新しい半導体材料として注目を集めています。



参考文献
I. Shimoyama et al., Evidence for the Existence of Nitrogen-Substituted Graphite Structure by Polarization Dependence of Near-Edge X-Ray-Absorption Fine Structure, Phys. Rev., B, 62, R6053 (2000). 博士研究員

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果 2001
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