8.4 ガラスの原子配列は不規則的か?
―放射光とシミュレーションでみる「乱れた構造」の世界―
 


図8-7  B2O3ガラスの高エネルギーX線回折およびパルス中性子回折による構造因子

高エネルギーX線回折によるB2O3ガラスの構造因子が、パルス中性子回折に匹敵する広い波数領域(従来の2〜3倍)で精度よく得られています。両パターンの違いは、ホウ素と酸素に対するX線散乱と中性子散乱の大きさの違いによるものです。逆モンテカルロ法(RMC)によるこのガラスの構造モデルは、どちらの実験結果も正確に表せることを示しています。


図8-8  RMCによるB2O3ガラスのネットワーク構造とユニット構造

三角形BO3ユニットからなる乱れたネットワーク構造の中に、規則的な平面領域(六角形のB3O6リング)が見えます。実際の構造モデルは、ホウ素原子1,600個、酸素原子2,400個から成る大きなもので、実にそれらの約20%がこのB3O6リングに属していることが明らかになりました。



私たちの身の回りは、ガラス、液体、ポリマーなど乱れた構造(原子の配列)をもつ物質であふれています。乱れた構造は、結晶の様な規則性をもたないため、これまで、その正体がきちんとわかっているとはいえませんでした。
物質の原子配列を調べる最も有効な手段のひとつにX線回折法があります。しかし、これまでのX線ではそのエネルギーが低く物質による吸収が大きいため、得られる回折データの精度と情報量(波数範囲)に大きな制約がありました。
私たちは、SPring-8の高エネルギーX線(30〜114 keV)の単色光を用いて、最も重要かつ一般的な「乱れた構造」のひとつである酸化ホウ素(B2O3)ガラスの回折実験を行い、高い精度と広い波数範囲で構造因子(規格化された回折強度)を得ることに成功しました(図8-7)。また、このデータにパルス中性子回折による結果を併用し、さらに逆モンテカルロ法(RMC)という計算機シミュレーションを援用することにより、精度の高い実験に基づいたガラス構造のイメージングに初めて成功しました(図8-8)。ホウ素と酸素が規則的なリングを数多く形成している様子が見事にとらえられています。乱れた構造を決定するには、このように精度が高く豊富な量の回折データと計算機シミュレーションとの融合が不可欠です。
今後、ガラスばかりではなく液体やポリマーなどの「乱れた構造をもつ物質」の研究および材料設計が、このような確からしい三次元構造をベースにして行われることが期待されます。



参考文献
K. Suzuya et al., High Energy X-Ray Study of the Structure of Vitreous B2O3, Phys. Chem. Glasses, 41, 282 (2000).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果 2001
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