8.5 ナノの世界の基本技術:原子レベルの酸化反応制御
 


図8-9  横から眺めたSi(001)表面における原子の並び

結合相手の少ない第1原子層では、傾いたシリコン原子どうしが二量体を作り、第2原子層以下とは異なった表面構造をとります。このため反応性にも違いが生じます。


図8-10  吸着酸素量(飽和)と酸素分子ビームエネルギー(Et)との関係

Si(001)表面に飽和吸着する酸素量はEtの大きさに依存します。Iは、表面第1原子層のシリコン原子上に酸素原子が吸着する領域、また、II、IIIは、それぞれ表面から第1、第2原子層にあるシリコン原子と酸素分子ビームが反応して酸化シリコンを形成する領域です。


図8-11  酸素分子ビームを衝突させたSi表面のSi 2p光電子スペクトル

スペクトル構造から酸化膜中のシリコン原子の酸化数が求まります。Etが大きいほど酸化膜厚(TOX)が大きくなるとともに酸化数が+4に近づくことから、Si表面はSiO2に変化したことがわかります。



シリコンLSIの中には、多くの電界効果トランジスタが組み込まれています。そのゲート絶縁膜である熱酸化膜は、LSIの集積度が増すにつれ薄くなり、近い将来、1nm程度になると予想されます。このため、シリコン(Si)表面の初期酸化の制御は表面科学における興味にとどまらず、高集積LSIの開発において大変重要なテーマとなっています。
SPring-8の軟X線ビームラインに敷設した「表面反応分析装置」では、酸素分子の運動エネルギー(Et)を制御することができます。大気中を飛び回るときの10倍の速さの酸素分子ビームをSi(001)表面(図8-9)に衝突させたところ、表面温度が室温であっても最大0.5 nm程度の極薄酸化膜を形成できることがわかりました。形成される酸化膜の厚さはEtに依存します。また、第一原理分子動力学計算で予測されていた酸化反応の運動エネルギーしきい値を初めて実験的に検証することができました(図8-10)。さらに、放射光を用いた光電子分光法により、酸化膜中のシリコン原子について酸化状態を解析した結果、Etが大きいほど酸化の度合いが進行していることも明らかになりました(図8-11)。
高エネルギー分解能の放射光による光電子分光法により、酸化反応が進行中のシリコン表面を、原子層のレベルで解析できることを確認しました。超音速酸素分子ビームの照射は、酸化反応を原子層のレベルで制御するために極めて有効で、シリコンに限らず、金属の表面酸化の制御へも応用できると期待されます。



参考文献
Y. Teraoka et al., Commissioning of Surface Chemistry End-Station in BL23SU of SPring-8, Appl. Surf. Sci., 169-170, 738 (2000).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果 2001
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