8.6 軟X線微弱発光から電子状態を探る
―高性能発光分光器の開発に成功―
 


図8-12  軟X線発光模式図

物質に放射光や電子線を照射すると、光電子や軟X線が放出されます。価電子帯は、結合状態に応じて何種類もの部分状態密度から構成されており、軟X線発光には、この電子状態情報が含まれています。


図8-13  軟X線発光分光計測系

CCDカメラが半径1 mの円周上を移動して、微弱な軟X線発光スペクトルを計測します。


図8-14  単結晶Siおよび5 keV Ar照射試料からのSi L2,3発光スペクトル

単結晶で見られるA、Bなどは、Ar照射により非晶質Si特有のピーク構造に変化します。



電子状態の解析法として、1970年代から光電子分光法が広く活用され、高温超伝導ブームでは大きな役割を果たしました。近年、高輝度放射光を利用した軟X線発光分光法が、にわかに注目されています。軟X線発光を計測し、そのスペクトル構造から、電子軌道ごとの結合状態を明らかにしようというものです(図8-12)。しかし、発光強度が極めて微弱であるため、高輝度放射光を利用しても数10分〜数10時間もの長時間測定が必要です。
今回開発した軟X線発光分光装置は、検出器としてCCDカメラを搭載しています(図8-13)。CCDは数100万個の画素(24 μm角)から構成され、その1個1個が独立したカウンターとして動作します。高いエネルギー分解能(E/ ΔE:500〜1500)と広いエネルギー範囲(50〜1500 eV)の計測を同時に実現するため、CCDカメラの表面すれすれ(78〜88.5°の角度)方向に軟X線を入射させました。単結晶Siおよび非晶質Siからの発光スペクトルでは、電子軌道の分布に違いのあることがよくわかります(図8-14)。
今回の開発によって、従来型の分光装置に比べ、計測時間の大幅な短縮、分光系の小型化、測定エネルギー範囲の拡張などを実現できました。今後は、放射光による共鳴励起現象を利用することで、数秒単位のスペクトル測定が可能になるほか、強相関電子系物質などの電子状態解析で威力を発揮すると期待されます。



参考文献
T. A. Sasaki et al., Performance of Soft X-Ray Emission Spectrometer Employing CCD Detector, Nucl. Instrum. Methods Phys. Res., A, 467-468, 1489(2001).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果 2001
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