9.2 わずかな放射線照射で高分子材料の硬度を大きく改善
 


図9-3  室温および高温で照射したPCの硬度の変化

PCを真空中、室温(25℃)および高温(150℃)でγ線照射したときの線量に対する硬度の変化を示したのもです。PCの硬度は高温で照射を行うとわずかな線量(3〜5 kGy/h)で大きく上昇します。室温照射では硬度の上昇は見られません。


図9-4  PCの硬度に及ぼす照射温度の効果

PCをいろいろな照射温度(135〜160℃)でγ線照射したときの硬度の変化を示したものです。硬度はPCのガラス転移温度に相当する150℃で照射したとき最大値を示します。



ポリカーボネート(PC)や芳香族ポリスルホン(PSF)は歯車やポンプなどに用いられるエンジニアリングプラスチックと呼ばれる工業用高分子です。表面硬度が増すと、特殊な機械部品への応用や人工医療デバイスへの適用が可能になります。照射温度を変化させると、照射効果が大きく変わることがこれまでの原研の研究で明らかにされています。PCとPSFの硬さを改良する目的でγ線と電子線照射における照射温度(室温〜230℃)の効果を検討しました。
図9-3に示すように、PCを150℃でγ線照射するとロックウエル表面硬度が5 kGyまでの低線量域で増大しました。硬度増大が最大になる線量を調べると図9-4のようになり、PCのガラス転移温度と同等の150℃でした。また、高温でγ線照射すると耐摩耗性が30%改善されます。PSFの場合も、3〜4 kGy照射で著しく硬度が大きくなり、ガラス転移温度(178℃)付近の照射で最も硬度が高くなることがわかりました。照射時間がγ線に比べ大幅に短縮できる電子線照射の場合も図9-3、9-4と同じ結果が得られます。これらの高分子は照射により架橋より切断が優先的に起きていることがわかりました。適当に主鎖が切断されることにより、分子鎖の絡み合いが解け、かつ主鎖が自由に運動できるガラス転移温度付近の照射のため、分子のパッキング状態がより密になり、その結果、硬度や耐摩耗性が高くなったと解釈されます。
これまで、高分子の硬度を高めるのにはセラミックパウダーやガラスの短繊維を混入する方法が行われています。放射線を用いた高温照射材料による硬度の制御や耐摩耗性の向上は高分子本来の特徴を損なうことなく改善できる点で、新しい高分子の改質法といえます。



参考文献
T. Seguchi et al., New Material Synthesis by Radiation Processing at High Temperature-Polymer Modification with Improved Irradiation Technology-, Radiat. Phys. Chem., 63(1), 35 (2001).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果 2001
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