9.3 放射線に強い細菌を用いてDNA損傷回復のメカニズムを探る
 


図9-5  放射線抵抗性細菌デイノコッカス・ラジオデュランスの電子顕微鏡写真

デイノコッカス・ラジオデュランスは、ヒトの約1,000倍、放射線に耐性を示す細菌です。


図9-6  標的遺伝子破壊用遺伝子KatCATカセットを用いた標的遺伝子の破壊

ラジオデュランスの中の狙った遺伝子を破壊する人工遺伝子“KatCAT”カセットは、ラジオデュランスの遺伝子発現信号配列(katAプロモーター)と大腸菌の薬剤耐性酵素遺伝子(cat)を結合させたものです。ゲノム計画であきらかにされた標的遺伝子を2つに切り、その間にKatCATカセットを挿入して、標的遺伝子の機能を消失させた人工遺伝子を作製します。これをラジオデュランスの遺伝子中にある正常な標的遺伝子と置き換えることで、確実に標的遺伝子を破壊することができます。


図9-7  放射線耐性に関与する未知遺伝子の存在の予測

ラジオデュランスの正常株の放射線耐性に寄与する遺伝子のひとつrecNを破壊しても、変異株よりも生存率が高いことがわかりました。このことから、この変異株がrecN遺伝子以外に放射線耐性に関わる別の未知遺伝子にも障害を持つことが明らかになりました。


90年代後半から始まったヒトゲノムを含む一連のゲノム計画の研究成果によって得られた遺伝子情報をもとに、その機能を解明するための様々な試みがはじまりつつあります。放射線抵抗性細菌デイノコッカス・ラジオデュランス(図9-5)の遺伝子塩基配列も、全て決定されました。私たちは、ゲノム計画の進行中から次のステップを見据えた取り組み、すなわち、ラジオデュランスの特定の遺伝子を破壊することで、その機能を明らかにする研究手法の開発を行い、その結果、狙った遺伝子を確実に破壊できる方法を開発しました。
この方法は、新規に開発した人工遺伝子(図9-6)を標的遺伝子に挿入することで機能を失った標的遺伝子を作製し、これをラジオデュランスの正常な遺伝子と交換することで、容易に、かつ、非常に高い効率で狙った遺伝子だけを破壊するものです。この方法を用いて、ラジオデュランス変異株KR4128ではDNA修復遺伝子recN以外に未知の修復遺伝子に障害があることを明らかにしました(図9-7)。
この手法で、ラジオデュランスが持っていて機能がわかっていない遺伝子を一つずつ破壊して、その機能を明らかにしていくことで、遠からず、ラジオデュランスの放射線抵抗性の全貌が明らかになり、その成果が、放射線防護やバイオテクノロジーへの応用に結びつくと期待されます。



参考文献
T. Funayama et al., Identification and Disruption Analysis of recN Gene in the Extremely Radioresistant Bacterium Deinococcus radiodurans, Mutat. Res. DNA Repair, 435, 151 (1999).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果 2001
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