9.6 だれでも簡単入力、生成放射能計算コードを開発
―イオンビーム利用の普及に必須のシステム―
 


図9-12  イオンビーム照射における核反応

入射イオンのエネルギーが高くなると、ターゲット物質中の原子とイオンの核反応の起こる確率(放射化断面積)が大きくなり、放射能が生成します。


図9-13  開発したIRACコードの計算フロー

照射に使用する入射粒子とターゲット物質の条件を入力すると、コード内の必要なデータを自動的に選び、物質中での粒子のエネルギー減衰や原子核反応を近似解法で模疑することによって、生成する放射性同位元素の種類、放射能および放出されるΥ線の線量が計算できます。


図9-14  イオン照射条件と研究分野の関係

材料やバイオ技術の研究分野では、広範囲の質量数のイオンとターゲット物質が使用されます。IRACコードは、これらの条件に対応できるように、入射粒子として150 MeVまでの軽イオンと500 MeVまでの重イオン、HからBiまでの136種類のターゲット核種の放射化断面積を備えていることが特徴です。


近年における加速器技術の進歩によって、イオンビームや中性子など、これまでとは異なる種類で、かつ、エネルギーの高い放射線が容易に発生できるようになり、その利用研究は材料・生物科学、バイオ技術、中性子科学など幅広い分野で進展しつつあります。しかし、エネルギーが非常に高いイオンや中性子が物質にあたると、図9-12に示すように、原子核反応によって物質中に放射能が生成するため、照射した試料や加速器施設についての適切な放射線安全管理が必要となります。また、生成放射能は加速粒子の種類やエネルギー、物質の種類および実験条件により異なるので、安全で効率的な利用実験を行うためには、生成する核種や放射能に関する情報を利用者が実験の計画段階から容易に得られることが必要です。
従来は利用者が原子核分野の専門家であり、ターゲット物質も限定されていたので上記の必要性はありませんでしたが、近年になって多数の非専門家が極めて広い範囲の物質を対象にこうした照射実験を試みるようになったので、難しい専門的知識なしで簡便に扱える計算システムが不可欠となってきました。
このたび世界に先駆けて開発されたIRACコードでは、イオンや中性子の入射粒子、およびターゲット物質に関わる条件のみを入力するだけで、数MeVから数百MeVのエネルギー範囲にあるイオンビームによる生成放射能を簡単に計算できます(図9-13)。利用が広がりつつあっても実測データが非常に少ない重イオンについては特に大きな威力を発揮しています。
本計算コードはイオン照射研究施設TIARAにおける申請課題の審査等の開かれた利用運営、実験計画、施設の安全管理等にこれまで活用され、多大な実績をあげるともに、国内外の加速器コミュニティで広い研究分野に利用されています(図9-14)。



参考文献
S. Tanaka et al., The IRAC Code System to Calculate Activation and Transmutation in the TIARA Facility, J. Nucl. Sci. Technol., Supl.1, 840 (2000).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果 2001
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