10.1  海と大気まとめて高速並列計算
―放射性物質の拡散予測をより高精度に―
 


図10-1  大気・海洋結合モデルによるシミュレーションの模式図

PHYSICは原研で開発された「中間規模(メソスケール)大気力学モデル」POMは「プリンストン海洋モデル」によるシミュレーションプログラムを表します。


図10-2  日本海を中心とした結合モデルの計算領域


図10-3  大気・海洋結合モデルによるシミュレーション結果(赤枠内が結合領域)

左図は大気の運動、右図は海洋の運動を表します。日本海上に低気圧による反時計回りの渦と北朝鮮の高山の影響による気流が見られます。これに対応する流れが海洋でも見られます。



いろいろな気象・海洋現象を考える時、大気と海洋はお互いに影響しあいます。このため大気と海洋との結合を考慮したシミュレーションを行うことはとても大切ですが、シミュレーションプログラムを作ることは物理モデルという点からも計算技術という点からも容易ではありません。私たちは、原子力施設の事故に際して放出される放射性物質の環境汚染に関して、大気運動についてはすでに放射能拡散予測システムWSPEEDIを開発して実用に供しています。より高い精度の予測を実現するために海洋現象を結合させることにしました。このような計算が困難である理由は、大気現象と海洋現象の時間スケールが大幅に違っており、海洋現象がきわめてゆっくりと進むことにあります。
結合モデルが成功した理由の一つは、私たちの開発したSTAMPIというプログラムライブラリによって、性格の異なるシミュレーションプログラムを、それぞれ最も効率的に実行できる計算機に担当させる、並列的なシミュレーションを実行できたからです(図10-1)。私たちは、日本海を中心とする領域(図10-2)について大気と海洋の結合したシミュレーションを行い満足できる結果を得ました(図10-3)。実際、風の力によって海表面の流れが支配されており、この結果、海洋中の放射性物質の拡散が決定されます。図10-3からわかるように海表面の流れは北朝鮮の高山によって支配されている風の向きに一致しています。



参考文献
S.H. Lee et al., Numerical Studies on the Interaction between Atmosphere and Ocean Using Different Kinds of Parallel Computers, SNA-2000, Sep 4-7, 2000, Tokyo, Japan, ES-G2(2000). 博士研究員

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果 2001
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