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照射誘起応力腐食割れ研究の進展に光
―軽水炉の炉内環境を模擬した照射試験の実施―




拡大図(107KB)

図11-1 高度材料環境照射装置構成図

高度材料環境照射装置は水環境制御装置と飽和温度キャプセルから構成され、同時に5本まで飽和温度キャプセルを接続し照射することが可能です。また、JMTRにはこの装置が2台設置されており、同時に多数の試験片の照射が可能です。


表11-1 BWRと水環境制御装置の水質比較

JMTR第144運転サイクル(2002年3月8日〜2002年4月7日)から試験片の温度、給水の水質を制御・調整した照射を開始し、BWRの水質を模擬できることを確認しました。




図11-2 キャプセル内温度分布図

照射中は、常に熱電対の値を温度評価にフィードバックし、試験片温度を評価し監視しています。




 BWRの水質、温度を模擬した条件下で照射試験のできる高度材料環境照射装置(図11-1)を開発・設置し、現在軽水炉の高経年化に係わる照射誘起応力腐食割れ(IASCC)研究のための照射試験を行っています。
 高度材料環境照射装置は、照射試験に供する試験片を収納する飽和温度キャプセルと、このキャプセルへ圧力、温度、水質を調整した水を供給する水環境制御装置から構成されています。水環境制御装置は、高温高圧給水、水質調整、水質精製、水補給の機能を有しており、水質については、国内BWRの代表的な水質の模擬が可能です(表11-1)。
 この装置は、照射孔が固定されるループ方式ではなく、キャプセル方式とすることによりJMTR炉心にある60以上の照射孔から、任意の照射孔を選択することができます。これにより、同時に様々な中性子束での照射試験が可能であり、JMTR燃料領域の高い中性子束条件下では、60年間運転したBWRのシュラウドの中性子照射量3×1025 m-2(E>1.0 MeV)を約2年で達成することが可能です。
 飽和温度キャプセル内の給水や試験片の温度評価方法は、コンパクト試験片(厚さ約5.6 mm)の温度については、試験片内部に挿入した熱電対の値と給水温度から評価し、単軸定荷重引張試験片(厚さ約2 mm)では、給水温度と流速から評価し、給水温度は、水中に配置した熱電対から測定します。給水流量と水温を調整することにより、異なる種類の試験片(約60個)の中心温度を目標温度範囲に制御することが可能です(図11-2)。
 この照射試験は最大照射量1×1026 m-2(E>1.0 MeV)まで今後も継続して行われます。照射試験後、このキャプセルはJMTRホットラボにおいて解体され、試験片を取り出します。取り出した試験片は、き裂進展試験、引張試験等の照射後試験を行います。取得されたデータは、IASCC現象の対策や機構解明のためのデータベースとなり、軽水炉の安全運転に大きく貢献するものと期待されています。



参考文献
H. Ide et al., Program of In-Pile IASCC Testing under the Simulated Actual Plant Condition, Proceedings of 11th International Conference on Nuclear Engineering (ICONE11), CD-ROM-36106 (2003).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2005
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