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固体材料は放射線の照射を受けてその性質が著しく劣化すること(照射損傷)があり、この照射損傷のメカニズムを理解することは、優れた材料を開発する上で重要なことです。金属の結晶格子の中に高いエネルギーを持つイオンが入射されると、その軌跡の周囲の電子を励起しながらエネルギーがこの電子群に伝達される場合と、イオンが直接結晶格子の原子に衝突してこの原子をはねとばし、はねとばされた原子はこの過程を繰り返して爆発的に格子間原子と空格子(格子欠陥)を作り出す場合があります(図1-3)。この二つの過程のいずれが支配的であるかを知ることは重要ですが、今までは金属の照射損傷は後者の原子衝突だけで説明できるものと考えられてきました。しかし、金属結晶を零下265度という極低温に冷却し照射損傷の効果をなるべく凍結して実験を行った結果、ニッケルやプラチナ等の金属では電子励起の効果が極めて大きいことを明らかにすることができました。 まず炭素イオンで極低温のニッケルを照射すると格子点からはじき出された原子が動きを凍結されてどんどん貯まっていきますが(図1-4左)、照射をやめてから電子励起効果のより大きなヨウ素イオンで照射するとエネルギーが電子励起を通じて格子欠陥の消滅に使われてわずかな照射量で格子欠陥量の減少(図1-4右)が起こることがその証拠になります。 |
参考文献
岩瀬彰宏、他、金属のイオン照射損傷における電子励起効果、日本物理学会誌、48、274 (1994). |
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