15.2 分子が動けば流れがみえる
   


図15-2 レイリー数3414における定常状態での速度ベクトル(上) と温度分布(下)

レイリー数が臨界値(1708)より十分大きいと安定な対流渦と対応した温度場が形成されます。2次元の流れ場を示した上図では中央で下向き、左右の壁で上向きの流れが見られ、等温線を示した下図では、流れによって冷たい部分が中央で下向きに広がっていることがわかります。

 


図15-3  系内温度分布のレイリー数による変化

温度分布に分岐が現われる臨界レイリー数は、線形理論により得られる値と一致しています。


 原子力分野における計算科学の研究の一つ、レイリー・ベナール対流の研究では、上面が低温で下面が高温に保たれた流体の挙動を、直接シミュレーションモンテカルロ法および分子動力学法を用いて計算しています。ここでは、上下の温度差により定義されるレイリー数がある臨界値より小さいと流れは発達せず熱伝導状態が実現され、大きいと対流渦が発生します。モンテカルロ法の結果の一例として、レイリー数が臨界値よりも大きい場合の流体の速度および温度場を図15-2に示します。レイリー数が臨界値よりも十分大きいため、安定な対流渦が形成されています。図15-3には、計算領域中間の高さでの温度分布を示します。レイリー数1700付近で対流渦が発生し、水平方向の一様な温度分布から分岐していく様子がみられます。連続流体の方程式の線形安定性解析から得られる臨界レイリー数は1708であり、分子レベルの計算からも同じ値が得られることを、このシミュレーションで初めて示しました。


参考文献

T. Watanabe et al., Simulation of a Two-Dimensional Rayleigh-Benard System Using the Direct Simulation Monte Carlo Method, Phys. Rev., E 49, 4060 (1994).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1995
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