11.2 乱立する並列コンピュータでも適用できる汎用数値計算ライブラリの完成
   

図11-3

固有値問題解析プログラムの並列計算性能

原研にある各種の並列計算機及びワークステーション・クラスターを用いて汎用数値計算ライブラリの固有値問題解析プログラムの性能評価を行った結果です。2,000× 2,000の実対称行列の全固有値及び全固有ベクトルを求めました。いずれの計算機についても十分大きなプロセッサ数まで速度向上性能が確保されています。一般に、プロセッサ数を増やしても、必ずしもこれに反比例して実行時間が短くなるわけではありません。このライブラリでは、プログラムを最適化することで、なるべく大きなプロセッサ数まで実行時間が反比例して短くなるようにするという理想が満たされていることがわかります。

 

図11-4

汎用数値計算ライブラリを使った大型シミュレーション

分子動力学シミュレーションによって液体セレンの構造を解析した結果の例を示します。64粒子の系ではセレンの鎖状構造を調べるには粒子数が少ない。計算時間は粒子数の3乗に比例して大きくなりますが並列化による計算時間の短縮で512粒子の系の計算も可能になります。

 

 


 大規模な科学技術計算を行う時には、多くの場合、連立一次方程式、固有値問題、フーリエ変換などのいわゆる「数値計算プログラム」を実行している時間が全計算時間の大部分を占めているので、並列計算機で高い効率を達成するには「数値計算プログラム」を重点的に並列化することが大切です。並列計算機にも今までの計算機に備えられているような「数値計算ライブラリ」がないわけではありませんが、並列計算機の機種による違いが大きいのでどの並列計算機システムでも安心して高効率で使えるような「数値計算ライブラリ」は存在していませんでした。そこで、私たちは、並列計算機の事実上の標準的インターフェイスになっているMPI規約に基づいて種々の数値計算プログラムを作成し「並列コンピュータのための汎用数値計算ライブラリ」を開発しました。
 ところで、このようなライブラリに関して重要なことは、並列計算機のプロセッサ数を増やした時に、これに比例して実行速度が増加するという速度向上性能が確保されていることです。図11-3は開発したライブラリを用い原研にある様々な並列計算機で計算時間と並列CPU数の関係を求めたものです。機種の違いによる速度の大小に関わらず速度向上性能が確保されていることがわかります。図11-4はこのライブラリの固有値解析プログラムを使った分子動力学シミュレーションによって液体セレンの構造を解析した結果です。並列化によって計算時間が短縮するので粒子数が大きい系のシミュレーションが現実的になってきます。


参考文献

清水大志他、原研における並列数値計算ライブラリの開発、計算工学講演会論文集、2、105 (1997).

ご覧になりたいトピックは左側の目次よりお選び下さい。



たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1998
copyright(c)日本原子力研究所