公開日付: 2025年 12月 3日
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電磁石電源の改良で大強度ビーム不安定化の元を断つ
-高耐圧ダイオードによる大強度陽子ビームの安定化-

図1 ビームの出射時のダイオードの働き
J-PARCは、リニアック、3 GeV陽子シンクロトロン(RCS)、主リング、物質・生命科学実験施設(MLF)等から構成される大強度陽子加速器施設です。RCSは、約80兆個の陽子を1/50秒で光速の97 %まで加速することで、1 MW級のビームをMLFに供給しますが、ここで、キッカー電磁石(以下、キッカー)が引き起こすビームの不安定化が問題になります。
キッカーは、加速終了時ビームを出射する装置で、電源とコイルから構成されます。ビームの出射時は、短絡させたコイル端に、電源から約3 kAという大電流を流すことで、入射と反射電流を重畳させ電力を節約しています(図1)。一方、ビームの加速時は、ビームがコイルに発生させた高周波の誘導電流がビームを不安定にします。
この電流を除去するため、キッカーと「抵抗だけ」並列接続する方法が採用されてきました。しかし、これでは、ビームの出射時に電源が供給する電流も消費されるため、余分な電力が必要になるという課題がありました。
そこで、抵抗の前に高耐圧のダイオードを直列接続する方法を考案しました(図1)。ダイオードは、高周波の順電流に対しては整流器、逆電流に対してはコンデンサーのように振る舞うため、電源からの電流を遮断しつつ、ビーム由来の電流を抵抗で除去できます。
本手法は、消費電力を増やさずにビームを安定化できるとして、米国物理学会誌のEditors' Suggestionに採択されました。
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