図4-21 水田における窒素循環
図4-22 SOLVEGを用いた(a)非耕作期間及び(b)栽培期間の水田上のNH3交換量の再現結果
私たちは、放射性物質の大気と陸面の間の動きを予測する陸面移行モデルSOLVEG(Multi-layer Atmosphere-SOil-VEGetation Model)を様々な環境中の物質移行研究に応用し、得られた知見を反映することで開発・改良を進めています。ここでは、独立行政法人農業環境技術研究所と共同で、水田と大気との間のアンモニア(NH3)交換量の予測に取り組みました。
水田は、アジアの主食であるコメの供給源として重要ですが、同時に亜酸化窒素(N2O)などの温室効果ガスの発生源でもあります。水田からの温室効果ガスの生成には、大気とイネ・土壌との間を移行する窒素の動きが複雑に影響しています(図4-21)。NH3は、水田上の大気中に多く存在し、イネの気孔を通じて吸収されたり、田面水に溶け込みます(沈着)。逆に、水田に窒素肥料を与えた際には、イネや田面水から放出されます。このようなNH3の交換量(放出と沈着の差)を正確に見積もることは難しく、水田からの温室効果ガスの発生量を予測するうえでの大きな課題でした。
そこで私たちは、水田でのNH3の動きに影響する田面水の温度や、イネの葉に含まれる水や田面水に溶け込んだNH3の濃度などを定式化し、これらをSOLVEGに組み込みました。このモデルを用いたシミュレーションによって、茨城県つくば市真瀬で観測された水田上のNH3の交換量を再現することができました(図4-22)。さらに、このモデルを用いて、イネの生育とともにNH3の交換量がどのように変化するかを調べました。田面水から放出されたNH3の一部は、再びイネに吸収されますが(再吸収)、再吸収量の割合はイネの成長とともに増える傾向が見られました。更にイネが成長すると、NH3のほとんどがイネに再吸収され、大気へと放出されないことを明らかにしました。このことは、水田に窒素肥料を与えるタイミングを適切に選ぶことによって、NH3の大気への放出を抑えつつ、イネが効率良く窒素を吸収できることを意味しており、肥料の管理計画にも貢献できる知見が得られました。
本研究は、独立行政法人日本学術振興会科学研究費補助金(No.22248026)「大気二酸化炭素増加と水稲品種が大気−水田間の窒素循環に及ぼす影響の解明と予測」の成果の一部です。