はじめに

松浦理事長

 

平素、私どもの研究開発業務に関し、多大なご理解とご支援を賜り誠にありがとうございます。

本誌は独立行政法人日本原子力研究開発機構(原子力機構)を発足して以来、毎年発行しているもので、日々取り組んでいる研究開発において得られた最新の成果について皆さまに広く知っていただくための成果普及情報誌です。

原子力機構は東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故(東京電力福島第一原子力発電所事故)からの復旧・復興に向けた取組みへの貢献を重要事業と位置づけ、我が国唯一の総合的な原子力研究開発機関としてその科学的技術的専門性を最大限活用して積極的に取り組んでおります。一方、原子力機構においては、高速増殖原型炉「もんじゅ」における保守管理上の不備や「大強度陽子加速器施設(J-PARC)ハドロン実験施設」の放射性物質の漏えい事故などにより社会から失われた信頼を取り戻すべく、2013年10月からの一年間を集中改革期間と定め、役職員が一丸となって改革に取り組んで参りました。 「自分達が自らを新しく作り直すのだという覚悟をもって」の改革へ向けての決意のもと、研究開発組織を六つの部門に再編するなど、経営企画機能、安全マネジメント機能及び内部統制機構の強化に向けた取組みを行うとともに、「もんじゅ」改革において、発電プラントとしての自立的な運営管理体制の確立、品質保証体制強化等に向けた取組みを、またJ-PARCの改革として、安全管理体制と安全確保のための施設整備を進めてきました。

2014年4月に政府が閣議決定した「エネルギー基本計画」では、安全性の確保を大前提に、原子力はエネルギー需要構造の安全性に寄与する重要なベースロード電源と位置づけされました。更に2014年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2014(骨太の方針)」でも同様の趣旨が明記されています。

東京電力福島第一原子力発電所事故からの復旧・復興に向けた取組みについては、廃止措置等を円滑に進めるため、燃料デブリ取出し準備のためのデブリ特性評価や遠隔操作技術、使用済燃料貯蔵プールの燃料集合体の長期健全性評価、事故により生じた放射性廃棄物の処理・処分等に関する試験等を進めています。また、住民の方々の早期帰還に資するため、森林や河川における放射線モニタリング、放射性セシウムの将来の移行予測、除染効果の予測・評価、汚染物の合理的な減容化技術の検討に不可欠な研究開発等を行っています。

「もんじゅ」を始めとする高速増殖炉サイクル技術の研究開発については、「もんじゅ研究計画」に示された研究成果のとりまとめを目指して、原子力規制委員会からの保安措置命令の解除、新規制基準への対応等を着実に進めます。また、廃棄物減容・有害度低減を目指した研究開発や安全性強化を目指した研究開発を、加速器を用いた核種変換の研究開発も含め進めています。バックエンドへの取組みとしては、役割を終えた原子力施設を安全かつ合理的に廃止措置することが事業を推進する上での前提であることから、自らの原子力施設の廃止措置とそれに伴い発生する放射性廃棄物の処理・処分に係る技術開発を実施するとともに、低レベル放射性廃棄物の処理・処分、地層処分及び軽水炉サイクルに関する技術開発を進めています。

原子力水素・熱利用研究については、高温ガス炉の安全性の高度化などの研究開発を着実に進めるとともに、高温ガス炉の実用化に向けて、高温工学試験研究炉(HTTR)と熱利用設備(ガスタービン発電、水素製造など)の接続試験を目指しています。核融合エネルギーの実用化を目指した研究開発では、国際的枠組み(国際熱核融合実験炉(ITER)計画/幅広いアプローチ(BA)活動)に基づく役割分担の下、日本の国内機関/実施機関として、超伝導コイルの製作など世界最先端の技術を投入して計画に沿って事業を進めてきました。量子ビーム応用研究開発については、原子力機構が保有する様々な量子ビーム施設群を利用し、環境・エネルギー、物質・材料、医療・バイオ各分野で、基礎研究から産業応用にわたって、多種多様な成果を創出してきております。また、原子力の安全確保は、原子力利用の大前提であるとの認識に立ち、原子力の安全性の継続的改善に向けた研究開発に鋭意取り組むとともに、我が国の原子力利用開発の基礎体力を成す幅広い各種基礎研究及び応用研究を進め多くの成果を得ております。

今後も機構改革を着実に進め、東京電力福島第一原子力発電所事故後の原子力利用開発において原子力機構が果たすべき役割への期待が高まる中、業務の重点化を怠らず、中長期的な視点からの原子力の人材育成、産学官連携、海外研究機関との国際協力を進めるとともに、研究開発成果の発信・普及にも積極的に取り組んで参ります。

本誌を通じて多くの方々に原子力機構の成果について一層のご理解をいただくとともに、私どもの研究開発活動につきまして引き続きご指導とご鞭撻を賜りますよう切にお願い申し上げます。

 

2014年11月

独立行政法人

日本原子力研究開発機構

理事長

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