1.4 超伝導体の磁束格子、磁束液体に変身!
   


図1-6   高温超伝導体中の磁束格子・液体状態

高温超伝導体中の磁束量子は、低温では三角格子状に整然と配列しますが(a)、温度が上がるにつれて熱的な揺らぎが増大し、まっすぐに伸びていた磁束はくねくねと曲がり出し、さらには、磁束液体として超伝導体中を動き回り始めます(b)。

 


図1-7  ビスマス系高温超伝導体の中性子小角散乱二次元像(磁場:500ガウス)

低温(4 K)では磁束の三角格子配列によるスポット状の散乱パターンが観測されますが(a)、高温(60 K)では磁束格子の融解によりスポット状の散乱パターンは完全に消失してしまいます(b)。この結果は、磁束融解温度(57 K)と超伝導転移温度(90 K)の間で磁束液体状態が実現していることを示唆しています。

 


 高温超伝導体は第二種超伝導体に属するので、磁束量子が存在します。磁束量子とは、超伝導体を貫く磁場が量子力学的な要請から量子化され非常に細く紐状になったものです。高温超伝導体が発見されるまで、超伝導の出現する温度は極めて低温(数 K)に限られていました。そこでは、多くの物質が整然とした結晶格子を組むように、磁束量子も三角格子状に配列していました(図1-6(a))。ところが、高温超伝導の現れる温度(数10 K)は、室温に比べたらまだまだ低温ですが、磁束量子にとっては十分な高温となっています。温度が上がるにつれて、まっすぐに伸びていた磁束は、くねくねと曲がり出し、さらには、液体分子のように動き回り始めました。磁束格子が融解して、磁束液体ができたのです(図1-6(b))。この様子の直接観測にJRR-3に設置された冷中性子小角散乱装置(SANS-J)を用いて成功しました(図1-7)。磁束量子が一般の原子や分子と同じように固体や液体になったりする実体であったということだけでも驚きなのですが、高温超伝導体の磁束は、切断などさらに多様で複雑な挙動を示すことも実験でわかってきました。


参考文献

J. Suzuki et al., Small-Angle Neutron Scattering Observation of Vortices in Bi2Sr2CaCu2O8+delta, Proc. of the 11th Int. Symp. on Superconductivity, Springer, 553 (1999).

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