1.5 またもウラン化合物の不思議
   ―正方晶なのに二次元的伝導―


図1-8  (a)UBi2と(b)UX2(X=Sb, As, P)の結晶構造と磁気構造

もともと[001]方向に長い結晶構造がUX2 (X=Sb, As, P)では反強磁性のため、さらに長い磁気構造になっています。矢印はウランの持つ磁気モーメントの方向を表します。


図1-9  (a)UBi2と(b)USb2のドハース・ファンアルフェン(dHvA)振動数の角度依存性

dHvA効果は外部磁場を変化させたときの磁化の振動現象で、その振動数からフェルミ面の断面積がわかります。図中の実線は1/cosθ(θは磁場の傾きの角度)に定数をかけたもので、円筒の断面積に比例することから、フェルミ面が円筒状であることがわかります。α、βなどはそれぞれ異なるフェルミ面を表します。


図1-10  実験的に決定した(a)UBi2と(b)USb2のフェルミ面

dHvA振動数からフェルミ面の断面積を求め、フェルミ面の形状と大きさを計算しました。球状の(a)のαはθ依存性がなく、それ以外の円筒状のフェルミ面は1/cosθ 依存性を持ちます。

 


 金属が電気や熱の良導体であることは知られていますが、この伝導は金属中の伝導電子によって担われており、金属の性質は主として伝導電子によって決まります。この伝導電子の運動量の空間分布を示したものがフェルミ面です。このフェルミ面から、超伝導や電気伝導などの性質がわかります。
 私たちはUX2(X=Bi, Sb, As, P)で、ウラン化合物では初めての円筒状の二次元フェルミ面を発見しました。二次元フェルミ面では、伝導面と伝導面との間に絶縁層があり、伝導に大きな異方性を持つのが特徴です。二次元フェルミ面はこれまで、銅酸化物高温超伝導体や有機導体などの層状物質で見出されており、これらの物質が二次元フェルミ面を持つことは、結晶構造から容易に理解できます。ちなみに、等方的な電気伝導を示す最も簡単な例は、アルカリ金属や銅などの球状フェルミ面です。
 UX2(X=Bi, Sb, As, P)は[001]方向に細長い正方晶の結晶構造を持っており、二次元的な伝導は考えにくいものでした(図1-8)。図1-9は円筒状の二次元フェルミ面が存在することを示す実験結果です。これらの化合物は180〜280 Kの室温に近い温度で反強磁性体になります。特にUX2(X=Sb, As, P)では単位胞を2つ積み重ねた磁気構造をとり、磁気的な構造はさらに長くなります(図1-8)。したがって結晶の逆格子(距離でなく運動量に対応するもので、逆格子の長さは実際の結晶格子の長さに反比例)空間における単位胞であるブリルアンゾーンは常磁性状態の高さの半分の非常に平らなもの(図1-10)になります。フェルミ面はブリルアンゾーンを単位として表されるもので、常磁性状態のフェルミ面は[001]方向に半分に分断されて円筒状のフェルミ面が出現すると考えられます。
 反強磁性により二次元フェルミ面が出現するという珍しいウラン化合物の物性がまた一つ明らかになりました。


参考文献

D. Aoki et al., Crystal Growth and Cylindrical Fermi Surfaces of USb2, J. Phys. Soc. Jpn., 68(7), 2182 (1999).

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