1.8 生物界に共通なアポト−シス抑制遺伝子を発見
   


図1-15  植物のBI-1タンパク質の構造

植物のBI-1遺伝子は約26キロダルトンのタンパク質をコードしていました。7箇所の疎水性領域が存在し、それぞれが膜貫通ドメインを構成していると考えられます。

 


図1-16  BI-1遺伝子による細胞死の抑制

(A)動物のBax遺伝子を酵母内で発現させ、寒天培地を含むシャーレ上に植えると、細胞死を引き起こして増殖できなくなります。植物BI-1遺伝子を同時に発現させると細胞死が抑制され、酵母が増殖できるようになりました。
(B)つまり、生物種を超えて、植物のBI-1が酵母内で細胞死抑制遺伝子として機能することが確認されました。

 


 アポトーシスとは、細胞が自らを殺すことにより発生や分化による形づくり、さらには、発ガンなどの異常細胞増殖の阻止に不可欠な生命現象です。一方、放射線による被ばくは人体に過度のアポトーシスを誘発することが知られています。アポトーシスの制御が可能になれば、医学、農学分野での様々な応用が可能になるでしょう。 今回、私たちは植物に由来する細胞死抑制遺伝子(BI-1遺伝子)を世界に先駆けて単離しました(図1-15)。本タンパク質は7つの膜貫通領域を有することから、細胞内の膜系に存在して、細胞死の情報の受け渡しに重要な役割を果たしていると予想されました。酵母内で動物Bax(細胞死遺伝子)を発現させると、アポトーシス様の細胞死を引き起こします。植物BI-1遺伝子を、この酵母に導入したところ、Baxによる細胞死を劇的に抑えることがわかりました(図1-16)。BI-1タンパク質のカルボキシル末端には塩基性アミノ酸が多数存在しており、この領域が他の未知の因子と相互作用してアポトーシスを妨げているものと推定されます。
 動物、植物という生物種の垣根を超えて、植物の遺伝子が動物の遺伝子による細胞死を抑制することが明らかになったことから、生物界に共通な細胞死抑制遺伝子の存在は、生物種の進化を考える上でも興味深いものと思われます。


参考文献

M. Kawai et al., Evolutionally Conserved Plant Homologue of the Bax Inhibitor-1 (BI-1) Gene Capable of Suppressing Bax-Induced Cell Death in Yeast, FEBS Lett., 464, 143 (1999).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2000
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