2.8 コンパクトなITER
   ―国際熱核融合実験炉の工学設計―


拡大図(189KB)

図2-14 コンパクトITERの主要諸元とトカマク構成機器

 


 ITER工学設計活動は平成10年7月に一段落を迎えました。しかし、設計終了後直ちにITERの建設活動に移行するには社会的、経済的環境が整いませんでした。そこで、設計活動を3年間延長して、コストを約半減しつつも、将来のエネルギー開発の観点から、意義を失わない、むしろ将来の定常核融合炉を見据えた新たな技術ガイドラインを各国の代表者で組織する会合で審議し、この技術ガイドラインに基づいてコンパクトなITER設計を進めています。新たな技術ガイドラインでは1)エネルギー増倍率(核融合出力/外部加熱パワー)Q>10で300秒以上のパルス運転(従来:Q=∞、1,000秒)、2)エネルギー増倍率>5の定常運転(従来:同左)、3)炉工学機器の試験のための中性子壁負荷>0.5 MW/m2(従来:〜1 MW/m2)、積算中性子量0.3 MWa/m2(従来:1 MWa/m2)の運転を実現し、はじめての本格的なDT燃焼と核融合炉工学の総合的実証を目的としています。
 コンパクトに向けたITERの設計では、工学R&D等で達成した技術成果や現在進行しているR&Dを通して達成される見込みある技術に基づいて、大幅なコスト削減(従来の設計の約50%を目標)が見通せる工学設計を実施する必要があります。コンパクトITERの装置概念については、幾多の議論を重ねて、我が国が一貫して提案してきた「高い磁場のまま、装置寸法を小さくして、パルス及び定常運転に対して高密度プラズマ運転の実現を目指す」ことが、小型化に対する基本的な考え方として国際的に合意されました。
 既存の大型トカマク装置で得られた最新の実験データをもとに、プラズマの各種パラメータのバランスを図るとともに、トカマク機器との整合性を図って設計を進めています。図2-14にコンパクトITERの主要諸元とトカマク構成機器を示します。エネルギー増倍率Q=10、約400秒の運転は、ほぼ確実に実現できるものと予測しています。プラズマ電流の駆動のために新たに電磁誘導と非電磁誘導方式を組み合わせたハイブリッド運転法を導入して、Q>5で2,000秒以上の長時間運転ができる見通しが高い設計としています。
 もう一つの重要な課題である炉工学機器の試験については、従来のITERと比較すると、核融合出力が約1/3に減少したものの、核融合炉のための工学機器試験で必要とされる燃焼プラズマからの中性子束は、従来の6割以上が確保できるものと予測しています。また、中性子照射積算量は従来の1/3程度を確保しますが、さらにプラズマ形状と真空容器内機器の小規模な変更により、従来と同レベルの中性子照射積算量が達成できるように柔軟な工学機器設計を進めています。


参考文献

G. Janeschitz et al., The Requirements of a Next Step Large Steady State Tokamak, Nucl. Fusion, 40(6), 1197 (2000).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2000
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