2.12 ベリリウム微小球の実用化でトリチウム生産の効率アップ


図2-21 回転電極法による微小球製造

ベリリウム電極を回転させ、タングステン電極との間のアークによりベリリウムを溶かし,遠心力で飛ばして微小球を作ります。

 


図2-22 微小球の照射試験結果(例)

ホットプレス材に比べ微小球のスエリングの方が小さいことがわかりました。また、圧潰強度は未照射時とほぼ同じであることがわかりました。

 


 核融合炉では、燃料となるトリチウムを生産するために、トリチウム増殖ブランケットが設けられます。このブランケットには、トリチウムを効率良く生産するために、中性子増倍材としてベリリウムが用いられます。べリリウムは、核融合炉の運転中に高い中性子照射(最高約50個のベリリウム原子当たりに1個のヘリウム)を受ける上に、最高約600℃の高温で使用されるため、内部にヘリウムが生成し、結晶粒界等に泡状に凝集してスエリングが起り、最悪の場合ブランケットの容器を破損させる恐れもあります。これを防ぐためには、ベリリウムの体積を小さくしてヘリウムを貯まりにくくする必要があり、直径約1 mmの微小球が必要とされていました。しかし、これまでの製法によるベリリウム(ホットプレス材)から微小球を作るには、機械的な加工が必要であるため大変な労力が必要となります。回転電極法によりベリリウムの微小球の製造技術の開発を行い、実用化に成功しました。
 回転電極法によるベリリウム微小球の製造は、モータによって高速回転するベリリウム電極とタングステン電極との間にアークを飛ばし、ベリリウムを溶かします。溶けたべリリウムは、遠心力で振り飛ばされ、微小球になります(図2-21)。この方法で製造した微小球をJMTRで中性子照射し、スエリングと圧縮強度を調べました。この結果、ホットプレス材より微小球の方がスエリングが小さいことが分りました(図2-22)。これは、微小球の体積が小さく、へリウムが放出しやすいのに加えて、結晶粒径(約0.5 mm)が既存のホットプレス材より約50倍大きく、結晶粒界に貯まるへリウムが少ないためと考えられます。また、圧縮強度を調べたところ、微小球は中性子照射を受けても強度が未照射材とほとんど変らないことも明らかになりました。これらの成果により、ITERや欧州原型炉SEAFP(Safety and Environmental Assessment of Fusion Power)の設計にベリリウム微小球が中性子増倍材として採用されることになりました。また、ベリリウム微小球は、国際的な標準材料に指定され、欧米及びロシア等でも照射試験を開始する予定です。


参考文献

E. Ishitsuka et al., Microstructure and Mechanical Properties of Neutron Irradiated Beryllium, J. Nucl. Mater., 258-263, 566 (1998).

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