3.1 大強度陽子加速器に向けて高密度負イオン源開発に目処


図3-1 負イオン源の構造

プラズマ生成室(150 Φ×200)で発生するH-イオンは4種の電極を通って引き出されます。

 


図3-2 負イオン源の外観

プラズマ生成室には作動時は-70 kVの電圧がかけられます。

 


図3-3 負イオンビーム電流(密度)とアーク放電電力の関係

イオン源にセシウムを添加すると、アーク放電電力にほぼ比例してイオン電流(密度)が増加し、30 kWの投入時にイオン電流は40 mAに達します。

 


 原研と高エネルギー加速器研究機構の計画が統合されて、大強度陽子加速器の建設がスタートしようとしています。目標とする性能は、特にその電流強度において現存の加速器を大幅に上回ります。電流強度は当然のことながらイオン源からの電流値によって決定されます。さらに、加速器の大電流加速を容易にするためには、イオン源電流の質が良いことが不可欠の条件になります。
 イオン源としては、ピーク電流で60 mA、デューティーファクター(ビーム発生時間の全時間に対する比)で1.25%〜15%が必要です。また、陽子加速器を構成するシンクロトロンへのビーム入射効率を向上させるには、ビームのイオン種は負イオンであることが必要となります。この仕様を満たす負イオン源はまだ存在しません。
 私たちはこれまで行ってきた開発をベースに改良を加えた負イオン源を製作し(図3-1、3-2)、詳細にその特性を検討しました。その結果、セシウム添加が有効であり、プラズマ生成室で負イオンを生成するアーク放電電力にほぼ比例してイオン電流とその密度が増加することが明らかになりました(図3-3)。また、差動真空排気によるイオン引き出し部の真空の向上が、残留ガスによるビーム損失を低減することもわかりました。こうして、デューティーファクター5%で40 mAのピーク電流を得、目標を達成できる見通しとなりました。電流密度(電流値をビーム引き出し孔面積で割った値)では80 mA/cm2に相当し、サイズの小さい良質のビームと言えます。


参考文献

H. Oguri et al., Development of a H- Ion Source for the High Intensity Proton Linac at Japan Atomic Energy Research Institute, Rev. Sci. Instrum., 71(2), 975 (2000).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2000
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