4.1 レーザー光波面の極微の歪み、魔法の鏡で自動補正


図4-1 位相共役鏡とは

(a)位相共役鏡からでた反射光は元の光源に向かって収束します。
(b)歪媒体を通過した歪をもつ光が位相共役鏡で反射して位相共役光となります。これが同じ歪媒体を逆方向から戻ると歪が補正されます。

 


図4-2 開発した位相共役鏡システム

パルス幅50 n秒、繰り返し100 HzのNd:YAGレーザー(パルスエネルギー20 mJ)が光収差のある2つの望遠鏡を通過します。そして位相共役鏡による反射光が逆のコースをたどります。A点で入射光と反射光のプロファイルを2つのCCDカメラによって比較します。挿入図は位相共役鏡の内部構造(ループの長さは全長800 mm)を示します。

 


図4-3 CCDカメラで観測されるビーム形状

(a)Nd:YAGレーザーからの入射光
(b)2つの望遠鏡による収差を補正した位相共役反射光

 


 コヒーレント光源であるレーザーの機能を最大限に利用するには光波面を正確に制御できることが不可欠です。ことに私たちが取り組んでいる超高強度の極短パルスレーザーの発振に使用する平均出力200-300 WのNd:YAGレーザーなどでは、光学素子の熱変形、レーザー媒質の熱レンズ効果や屈折率のゆらぎによるレーザー波面の歪が重大な問題になってきます。歪のためにレーザーの集光が困難になるのです。この歪を補償する技術として、波面の歪を検出して実時間で光学素子に変形を与える位相共役技術が使われます。位相共役な光とは、入射光に対して波面が同じで逆方向に進行する光波です。入射光が非線型媒質内で形成する一種の回折格子によって逆方向に反射されるときに位相共役光となります。光の伝播路に歪があっても位相共役光として歪を逆方向から戻ってきたとき、歪が自動的に補正されます(図4-1)。私たちは、従来行われている光路内部に位相共役回路を組み込む方法ではなく、図4-2のようにこの回路を光路外部に置くことにより、20 mJのナノ秒パルスに対して従来法より10倍も早い応答速度、2倍の反射率をもち安定に動作する位相共役光学系を開発しました。図4-3に入射光と収差を補正した位相共役反射光のビーム形状を示します。図4-3(b)に見られるように、位相共役鏡によって収差による位相歪みがほぼ完全に打ち消されていることがわかります。これにより、質のよい高出力レーザーの開発が一歩前進しました。


参考文献

K. Tei et al., Ring Self-Pumped Phase Conjugator for High Energy Pulses at 1064 nm with Rhodium-Doped BaTiO3, Jpn. J. Appl. Phys., Part 1, 38(10), 5885 (1999). 博士研究員

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