4.2 ピンチプラズマを使った光導波路で超高強度レーザーもスイスイ


図4-4 プラズマ光導波路形成装置

内部に組み込まれている細管(キャピラリー)に弱電離気体を封入し、高速Zピンチ放電により管内の電子密度分布がちょうど高強度レーザースポットを軸方向にガイドするようなプラズマ光導波路を1ナノ秒にわたって形成します。レーザー加速実験で1 GeV電子ビームを得る目的の装置です。

 


図4-5 高強度超短パルスレーザーのプラズマ光導波路伝播実験結果

a)高速Zピンチ放電によるプラズマ光導波路(長さ2 cm、ガス圧0.9 Torr)を通過したチタンサファイアレーザー光の放電管出口におけるCCD画像
b)プラズマ光導波路が形成されないときの中性ガス通過後のCCD画像
c)それぞれの強度プロファイル

 


 レーザーの強い電場を利用して荷電粒子を加速する研究は、これまでの大型加速器を小型化できる点で強い関心が持たれています。具体化に向けて、私たちはプラズマ中を走る短パルスレーザーがつくる航跡場(wakefield)にタイミング良く荷電粒子を打ちこんでレーザーの進行方向に加速することに挑戦しています。プラズマは正イオンと電子の集団で、両集団が互いに振動しています。集光されたテラワット級の超短パルスレーザーがこのプラズマと相互作用するとき、ちょうど水面を走る舟の背後にできるような大きい振幅の航跡場ができます。この航跡場の波(強い加速勾配)に荷電粒子を乗せますが、これではレーザーの集光点付近でしか加速されません。小さいスポットを長距離にわたって持続させるのがプラズマ光導波路です。これまで世界では、数テラワットのレーザー自身の自己収束効果(セルフチャンネリング)を用いた光導波が主に研究されてきました。この方法では、光学系に依存していますが、せいぜい1-2 mmの光導波が限界でした。
 私たちは導波路形成方法として、ピンチ効果を利用して、加速用レーザーの通り道にあらかじめ導波路用のチャンネルを作っておく方法(プレチャンネル法)を提案しました。この方法では広い密度領域でおよそ10 cm程の光導波路を容易に作ることができます。この装置を図4-4に示します。今回この方法を用いてパルス幅90フェムト秒、2.2 TW、集光直径40μmの高強度パルスレーザーを世界で初めて2 cm伝播させることに成功しました(図4-5)。すなわち、長いチャンネルにスケーリング可能な新しいチャンネル形成方式を提案し、それを実証したわけで、レーザープラズマ加速器の実現に向けて大きく前進しました。


参考文献

T. Hosokaiet al., Optical Guidance of Terrawatt Laser Pulses by the Implosion Phase of a Fast Z-Pinch Discharge in a Gas-Filled Capillary, Opt. Lett., 25(1), 10 (2000). 博士研究員

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2000
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