4.3 シミュレーションで納得、レーザー照射で高エネルギーイオンが出るわけ


図4-6 プラズマ層における電子密度の時間変化

強度400 TW、パルス幅約10フェムト秒のレーザーが低密度(1020/cm3)プラズマ層に入射したときの様子を示します。時間はプラズマ振動の周期を単位としてあらわし、距離はレーザーの波長を単位にとっています。レーザー入射直後、電子はレーザーの進行方向に押され(t=20)、またその一方で動重力によって排出され、電子密度に空洞ができます(t=40)。空洞はレーザーパルスの進行とともに移動してついにプラズマ層から分離します。

 


図4-7 時刻t=150におけるイオンの状態

(a)イオンのエネルギー分布、(b)イオン密度、(c)イオンの運動量分布。イオンは最大5 MeV程度にまで加速され、しかもプラズマ層境界付近でレーザー進行方向に加速されることがわかります。

 


 私たちは、100テラワット(1014 W)という強度の極めて高いレーザーが開発し、またそれを集光して高エネルギー密度の極限状態における物質がもつ性質の研究を開始しつつあります。原子はレーザーの強い電場の下で電離してプラズマになります。また電場の強さが変化しているところで荷電粒子が電磁波から受ける動重力(ポンデロモーティブ力)により、プラズマは集団運動を起こし、プラズマ波の発生、高エネルギー電子の加速、さらにはイオンの加速が生じ、中性子やγ線の発生などの核反応を誘起するらしいことが報告されています。
 従来、低密度プラズマにおける動重力効果については、レーザー進行方向に対して垂直方向の加速が議論されてきました。私たちは高強度超短パルスレーザーとプラズマの相互作用においてイオン加速をもたらすレーザーの進行方向のイオン加速機構を初めてシミュレーションによって明らかにしました。図4-6では、プラズマ中の電子密度が変化してついに電子群がプラズマ層から分離するまでの様子を示しています。図4-7は電子群がプラズマ層から分離した後(t=150)でのイオンの動きを説明します。プラズマ層の入口と出口付近からイオン放出が始まり加速されていることがわかります。プラズマ層を厚くすると、イオン加速の開始は遅くなりますが、分離される電子の数が多くなり、それだけイオンの加速力が大きく、最大エネルギーは大きくなります。
 今後、このような比較的指向性のよい高速イオン群をビームとして抽出することを検討することにより、レーザープラズマの新たな利用展開の可能性が開けるものと期待されます。


参考文献

M. Yamagiwa et al., Ion Explosion and Multi-Mega-Electron-Volt Ion Generation from an Underdense Plasma Layer Irradiated by a Relativistically Intense Short-Pulse Laser, Phys. Rev. E, 60(5), 5987 (1999).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2000
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