4.4 定説に反例!
   ―純粋液体の一次相転移現象をはじめて観測―


図4-8 液体リン中の原子の並び方を表した模式図

がリン原子、線が原子の間の結合を表します。約1万気圧より低圧では、リン原子は4個集まって分子を作りますが、それより高圧では、広がった網目構造をつくることがわかりました。

 


図4-9 液体リンの構造が変化する様子を表したX線回折パターン

上から下に、左が加圧した場合、右は減圧した場合です。狭い圧力範囲でピークの位置や強度が大きく変わります。このことから、原子間距離や近接原子数の異なる2つの構造があることがわかります。

 


 物質は固体、液体、気体の3態をとります。これらの間を移り変わるとき、原子の並び方や密度が変わります。これを一次の相転移と言います。また、原子が規則正しく並んでできた結晶固体でも、温度や圧力を変えると原子の並び方や密度が突然変わることがあります。これも一次の相転移です。一方、純粋な液体では、原子の並び方が違う2つの状態の間で急に移り変わりが起きることはないと考えられてきました。
 しかし、私たちはこのような変化が起こる証拠を見つけました。液体のリンの構造を、大型放射光施設SPring-8の偏向電磁石からの硬X線ビームラインである原研材料科学ビームラインI(BL14B1)と高温高圧発生装置(SMAP180)を使って、X線回折という方法で調べたところ、約1万気圧以下の圧力では、リン原子が正4面体型の分子を作って並んでいるのに、それ以上の高圧では、原子が網目状につながっていることがわかりました(図4-8)。圧力を増したり減らしたりすると、この二つの状態の間で急に変化が起こる様子が観察できます。これはこの変化が一次の相転移であることを示しています(図4-9)。
 この研究は、純粋な液体の構造が突然変わる様子を世界で初めて観察したもので、物理や化学などの基礎科学の発展に寄与するだけでなく、地球内部のマグマの研究や高温高圧下での物質合成の研究にも結びつくものと期待されます。


参考文献

Y. Katayama et al., A First-Order Liquid-Liquid Phase Transition in Phosphorus, Nature, 403(6766), 170 (2000).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2000
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