4.5 見えなかった四重極モーメントの整列、放射光で見えた


図4-10 DyB2C2 の結晶構造

 


図4-11 DyB2C2 における四重極秩序

結晶を上から見ると、温度が25 K以上では丸かった電子の分布が、温度を25 K以下に下げると右のように歪みます。

 


図4-12 放射光X線による四重極秩序の検出

(a)X線の波長とDyの四重極モーメントの並びの周期を合わせておくと、X線のエネルギーが丁度Dyの共鳴エネルギーになったところでのみ強い散乱が起こり、(b)この時X線の偏光方向を結晶に対して回してやると強度が大きく変化します。この結果はDy原子が歪んでいることの直接的証拠であり、四重極秩序が起こっていることを示しています。

 


 全ての物質は原子からなっており、これらの原子のうち、遷移金属と呼ばれる原子では、多くの場合、磁気モーメントを持ち、その方向をどちらにするかという自由度が存在します。
 これ以外に、どの軌道に電子を入れるかという自由度が存在し、これにより、原子は電気四重極モーメントというものを持つことになります。この四重極モーメントの向きが物質の中で整列することを四重極秩序といい、特に希土類原子を含む物質で起こると考えられています。ところが、この秩序は起こったことを表に出さないため、いわば「隠れた自由度」として知られていました。
 四重極秩序が起こると、その原子を回っている電子の分布が対称性の高い形から対称性の低い形へ歪みます。例えば、希土類元素であるジスプロシウム(Dy)を含むDyB2C2という物質(図4-10)では、25 Kを境に電子分布が図4-11のように変化すると考えられています。X線でこういう対称性の低下を見ることができるのです。
 それぞれの原子は固有の共鳴エネルギーを持っており、共鳴エネルギーと同じエネルギーを持ったX線を原子に当てると、X線の偏光方向と原子が歪んでいる方向に応じて、散乱されるX線の強度が変わるということが知られています。
 X線は波なので、四重極モーメントの並びの周期とX線の波長が一致するように結晶にX線を当てる角度を選ぶことができます。この時、丁度共鳴エネルギーの所で強くX線が反射され(図4-12(a))、さらにX線の偏光方向と結晶の向きの関係を変えてやると反射強度が大きく変化する(図4-12(b))、という現象が観測されます。
 私たちは放射光X線源というエネルギー可変でかつ高い偏光を持った光源を用いることにより、図4-12に示す現象を観測し、さらに格子歪みの解析から、4f化合物であるDyB2C2で確かに図4-11に示すような四重極秩序が起きていることを初めて直接的に示すことに成功しました。


参考文献

Y. Tanaka et al., Evidence of Antiferroquadrupolar Ordering of DyB2C2, J. Phys., Condens. Matter, 11(44), L505 (1999).

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