4.6 表面X線回折法で原子レベル制御
   ―薄膜作製用めっき技術に朗報―


図4-13 真空蒸着と電気めっきの比較

真空蒸着では膜材料に熱を加えて蒸発させ、基板に積層させるのに対し、電気めっきでは、基板に印加する電位を制御し、水溶液中のイオンを還元して膜を作製します。制御因子に応じて、それぞれ形状や性質の異なる膜を作製できる可能性があります。

 


図4-14 パラジウムの単原子層をAu(111)表面に電気めっきした試料からの表面X線回折プロファイル

赤い丸で示した測定点は、金基板の積層秩序(面心立方格子)を受け継ぐ図中Aの位置をパラジウムが占めていると仮定して計算した結果(実線)とよく一致します。積層の構造を変えることに相当する他の場所(B、C)では、破線や一点鎖線のように、測定結果を再現しません。これは、パラジウムが金基板の構造を受け継いで平坦な単原子膜を形成していることの、はじめての直接的な証拠です。

 


 原子レベルで設計された薄膜を作る技術は、現代の、そしてこれからの産業に欠かせません。従来、このような薄膜は、不純物の混入を避けるため、超高真空下で作製されるものでした。ところが近年、不純物を極限まで排除した超純水の中は、超高真空と同じくらい清浄な環境とみなせることがわかってきました。これを受けて、超純水を溶媒とした水溶液中での電気めっきが注目されています。真空中と水溶液中とでは、図4-13のように、薄膜の成長を制御する因子が異なります。そのため、真空蒸着では作れない薄膜も、電気めっきでなら作れるかも知れません。電気めっき自体は古くからある技術ですが、原子レベルの構造にまで配慮した電気めっきは、まだ緒についたばかりです。
 この新しい技術を確立するためには、それによる薄膜の成長過程を詳しく知る必要があります。ところが、水溶液中では、真空中で薄膜や表面の解析に使われる電子線が適用できません。そこで大きな役割を果たすのが、試料周りの環境に左右されにくい表面X線回折法です。
 図4-14に、触媒物質として重要なパラジウムの例を示します。放射光を用いた表面X線回折法により、電気めっきの過程における原子配列を知ることができ、基板であるAu(111)面の結晶構造を保った、平坦なパラジウム単原子膜を成長させることができました。真空中では、凹凸の大きい膜になったり、金パラジウム合金ができたりして、同じような膜になりません。


参考文献

M. Takahashi et al., Pseudomorphic Growth of Pd Monolayer on Au(111) Electrode Surface, Surf. Sci., 461, 213 (2000).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2000
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