4.8 やはり重要!物質内部の電子状態
   ―固体内部高分解能軟X線光電子分光にはじめて成功―


図4-17 CeRu2Si2及びCeRu2の高分解能光電子スペクトル

これまで盛んに行われてきた 光エネルギー(hυ)120 eVの真空紫外光を用いたスペクトルは両方の物質で類似した形をしており、物質としての性質が大きく違うのに電子状態が似ているとされてきました。 今回、SPring-8にて行った、光エネルギー880 eVの軟X線を用いたスペクトルでは、両物質の電子状態の違いが鮮明に現れており、物質内部(バルク)の電子状態が物質によって大きく異なることが明らかになりました。図の横軸はフェルミエネルギーに対する相対値で示してあります。

 


 物質の電子状態を解明することは、様々な性質を示す物質の理解に役立つだけではなく、それらを応用した新しい機能性材料の設計にも的確な指針を与えるため極めて重要です。
 物質の電子状態を調べる最も有用な手法の一つに光電子分光があります。これは、真空紫外光や軟X線の光を物質に入れた時に飛び出してくる電子のエネルギーを測定することによって、固体中の電子のエネルギー分布を直接調べる手法です。
 これまで全世界に普及している装置では、真空紫外光を用いた光電子分光が主に行われており、高い精度(エネルギー分解能)での測定ができるものの固体の表面しか観測できないというとても大きな制約がありました。また、固体内部を調べることができる軟X線を用いた光電子分光は、高い精度で測定することができませんでした。すなわち、多くの固体物質では表面と内部(バルク)の電子状態が大きく異なっているために、最も知りたい固体内部の電子状態が精密に調べられないという欠点がありました。
 私たちは、大型放射光施設SPring-8のアンジュレータからの軟X線ビームラインである軟X線固体分光ビームラインBL25SUにおいて世界最高の性能を実現した超高分解能軟X線分光器と高分解能光電子分光実験装置を用いて、CeRu2Si2およびCeRu2の測定を行い、その性質の違いを裏付けることに世界で初めて成功しました(図4-17)。
 これまでの光電子分光の弱点をほとんど克服できるこの方法は、特に現在世界的に注目を集めている新しい希土類化合物や、超伝導体、あるいは、新規な物理的性質を示す種々の遷移金属化合物など、いわゆる強相関電子系の電子状態の研究に画期的飛躍をもたらすであろうと期待されています。


参考文献

A. Sekiyama et al., Probing Bulk States of Correlated Electron Systems by High-Resolution Resonance Photoemission, Nature, 403(6768), 396 (2000).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2000
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