5.2 LET効果?高分子材料の機械的強度では見つかりません


図5-3 イオン照射によるポリエチレンの伸びの変化

照射により、高分子どうしの間に架橋反応が進み、引っ張り破断伸びが低下します。しかし2 MeVの電子線から350 MeVのNe8+までLETは0.2 eV/nmから287 eV/nmまで3桁にわたって変化しているのに、吸収線量だけに依存している様子がわかります。

 


図5-4 いろんなイオンおよびγ線で照射したポリエチレン中の二重結合の生成量

ポリエチレン中の二重結合の生成量は赤外スペクトルの解析から調べました。図中の2本の曲線は室温および100℃におけるγ線照射の場合です。照射する放射線の種類によらないで吸収線量によって、そしてわずかに照射温度によって決まることが確かめられました。

 


 放射線の道筋に沿ってエネルギーが物質へ移行しますが、放射線の持つ電荷と速度の違いによって、移行エネルギー量は変わります。そこで放射線照射による材料の機械的変化や物質中の化学変化を調べる際に、材料が受け取る全エネルギー(吸収線量:単位はGy=J/kg)に基づく以外に、放射線の単位距離あたりのエネルギー移行量(Linear Energy Transfer : LET)に基づいて放射線の種類による違いを議論します。とくにさまざまな宇宙放射線にさらされる宇宙用材料の耐久性などを評価するとき、放射線の種類による違い、すなわちLET効果の程度は重要な問題です。
 私たちは100 mm×100 mmの高分子フィルムにさまざまな放射線を試料全体に均一になるように照射して機械的強度の変化を調べました(図5-3)。また化学的変化としては材料中の高分子から水素分子がとれて二重結合が生成したり、高分子どうしの間に新しく化学結合(架橋)ができる反応を調べました(図5-4)。その結果、吸収線量だけで材料の損傷や反応の程度が定まり、LET依存性は存在しないことがわかりました。ということは、どの放射線の場合でも、その道筋に沿って同じ密度のエネルギー付与が生じていることを意味します。


参考文献

T. Seguchi et al., Ion Beam Irradiation Effect on Polymers. LET Dependence on the Chemical Reactions and Change of Mechanical Properties, Nucl. Instrum. Methods Phys. Res., B, 151, 154 (1999).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2000
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