5.3 天然有用多糖類の放射線分解で植物の成長促進


図5-3 γ線照射による分子量の変化

アルギン酸の4%水溶液と固体(粉末)をγ線照射したときの分子量の低下する様子です。水溶液で照射する方が1/10低い線量で低分子量化しますが、放射線エネルギーの有効利用の観点から、実際の応用に際しては粉末照射に利点が多いと思われます。

 


図5-6 アルギン酸の添加効果

イネを0、50、100 kGy照射したアルギン酸を添加して水耕栽培した時の写真を示したものですが、照射アルギン酸を用いた場合に根の発育が良くなっていることがわかります。9日間育成した試料を乾燥して重量を計る方法で定量的な発育促進効果を調べると、100 kGy照射したアルギン酸を20 ppm添加すると約20%の促進効果があり、20〜50 ppmの濃度が最適条件でした。

 


図5-7 低分子化アルギン酸の光合成に及ぼす効果

ピーナッツの葉に低分子量化アルギン酸水溶液を噴霧した後に、炭酸ガス消費量(mM/m2/s)に基づいて調べた光合成の促進を示したものです。噴霧しなかった植物に比べて、放出炭酸ガス消費量が増えて光合成も活発になっていることがわかります。

 


 海藻類に含まれるアルギン酸や甲殻類に含まれるキトサンなど分子量の大きな多糖類は食品、薬学、バイオエンジニアリング分野で広く応用されています。最近になって、酵素を用いた解重合反応(分子量を小さくする反応)によって得られる低分子量化した多糖類は植物の発芽・成長を促進したり、抗菌活性を増大させるなど今までになかった新しい作用があることがわかり注目されています。私たちは、放射線照射効果の一つの特徴である分子鎖切断を利用して得られる低分子量化多糖類は優れた機能を持っていることを明らかにしました。
 有機化合物は、放射線照射により分子鎖切断するタイプと分子鎖同士が結合するタイプに分かれますが、アルギン酸は分子鎖切断するタイプであることがわかりました(図5-5)。放射線解重合法で得られたアルギン酸の特徴を調べるため、イネを水耕栽培して成育状況を観察しました(図5-6)。一見して明かな効果がわかります。ピーナッツの場合は30日間育成した葉に低分子量化アルギン酸を噴霧する方法で効果を調べたところ、100 kGy照射で得られた低分子量化アルギン酸を100 ppm添加した噴霧液を用いると噴霧15日後で60%の成育促進が認められました。低分子量化アルギン酸の噴霧による光合成の促進効果を調べた結果(図5-7)、生化学的・生理学的機能も増進していることが確かめられました。ピーナッツに加え、茶、人参、キャベツのフィールドテストでは、15〜40%の生産力が向上しています。また、キトサンも放射線照射により解重合し、植物の生長が促進されました。


参考文献

N.Q. Hien et al., Growth-Promotion of Plants with Depolymerized Alginates by Irradiation, Radiat. Phys. Chem., 59, 97 (2000) .

ご覧になりたいトピックは左側の目次よりお選び下さい。



たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2000
Copyright(c)日本原子力研究所