5.5 イオンビームバイオ技術でビールスに強い植物


図5-10 選抜方法

タバコのつぼみから採取した葯を培養器の中で2日間培養した試料にAVFサイクロトロンからの220 MeV炭素イオンビームを5〜200 Gy、50 MeVのヘリウムイオンを5〜400 Gy照射し15日後に苗まで成長した葯の割合や、根の先端細胞の染色体異常などを調べて照射条件を最適化し、PVY耐性の選抜テストを行います。

 


図5-11 PVY接種試験

未照射の葯から得られた苗は接種後10日で葉脈が茶色に変色し、葉が黄変し、壊死の兆候が全ての葉、茎にあらわれ、最終的には21日の間に全ての植物体が枯れましたが、炭素及びヘリウムイオンを照射した葯から成長した15本の苗は接種後40日の段階で病変の兆候が現れず順調に生育しました。また、ヘリウムイオンを10 Gy照射した1株は、いかなる病兆も現われませんでした。

 

表5-1 抵抗性突然変異体の獲得

 


 ナス科植物の大病である黄斑えそ病を引き起こすポテトビールスY(PVY)は世界的に広く分布しており経済的損失を多く被っています。タバコの栽培種には、PVYに耐性の高いバージニアA突然変異体などの品種も開発されていますが、葉での分泌物が減少するなど劣悪な形質が伴っているため、実用的価値が低いのが現状です。
 イオンビームはγ線やX線に比べて物質へのエネルギー付与が格段に大きい上、深さ方向の照射が制御し易く、特定なポイントに照準を合わせて大量の放射線エネルギーを集中できるという特徴があります。これまで、高崎研究所のイオン照射施設TIARAを用いて、ヘリウム、炭素、ネオンなどのイオンを用いて行った研究から生物への効果が電子やγ線照射に比べてきわめて高いことが実験的に確証されています。
 生物学的観点からは、染色体数が半分の半数体は、劣性形質が直接あらわれ、またそのまま変異体として遺伝的に固定できるという特徴があり、有用な突然変異体を選別する方法として、タバコでは葯培養法が確立されています。突然変異の誘発効率の高いイオンビーム照射と葯培養法を併用してPVY耐性植物を作出する方法(図5-10)の研究を展開しています。
 PVY耐性は7〜8枚の葉が出た若葉にPVYの懸濁液をふりかけ接種し、その後25℃で育成して調べました(図5-11)。イオン照射した472個の葯から成長した15本の苗はPVY耐性を持つ突然変異体で、表5-1に示すように、抵抗性変異体誘発率はきわめて高いものでした。また、従来の抵抗性種に見られるような成長不良や分泌減少など不良形質はなく、抵抗性のみが変異した優良なものでであると言えます。


参考文献

K. Hamada et al., Potato Virus Y-Resistant Mutation Induced by the Combination Treatment of Ion Beam Exposure and Anther Culture in Nicotiana Tabacum L., Plant Biotechnol., 16(4), 285 (1999).

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