5.6 花びらのかたちを自由に変えられる!


図5-12 frl1突然変異体の特徴

frl1変異体(左の2枚)は、野生型(右の2枚)に比べて、花弁およびガクの周縁がぎざぎざになっています。根端分裂組織、雌しべ、雄しべなどの他器官の数や形態には野生型との差は見られません。

 


図5-13 frl1変異体の花弁表皮細胞の特徴

frl1変異体(左側)では、野生型(右側)に比べて、花弁細胞の大きさが不均一です(左上段および中段)。また、核が異常に肥大化することが染色により明らかになりました(左下段)。

 


 イオンビーム照射によって初めて花びらの形を決定する遺伝子の突然変異体を作ることに成功しました。植物全体や多くの器官の形が変わる突然変異体はこれまでも得られていましたが、花びらの形がぎざぎざになるような、ある特定の器官の形が変化した変異体は今回得られたfrl1変異体が初めてです(図5-12)。さらに、frl1変異体の遺伝子は花びらの原基が形成された後に機能し、器官の発達に係わっていることも明らかになりました(図5-13)。このことは、今回得られたfrl1変異体の遺伝子解析を進めることによって、将来花びらの形を自在に変えることができるようになる可能性を示すものです。
 1993年に材料・バイオ研究用として設置されたイオン照射研究施設(TIARA)を用いて、これまで他の方法では見出すことができなかったいろいろな突然変異体を作り出すことに成功しています。例えば、複色や条斑の花をもつキクの変異体、紫外線に強いシロイヌナズナの変異体、色素を種皮に特異的に蓄積するシロイヌナズナの変異体などです。これらはいずれもガンマ線などの方法では作り出すことができず、イオンビームによって初めて作り出すことができました。今回、シロイヌナズナの種子をイオンビーム照射することによって、花びらの先がぎざぎざになるような、ある特定の器官の形が変化したfrl1変異体が得られました。


参考文献

Y. Hase et al., FRL1 is Required for Petal and Sepal Development in Arabidopsis, Plant J. 24(1), 1 (2000).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2000
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